人間の体重の1-3%は細菌と言われているのをご存知でしょうか。
人間はたくさんの細菌と共存して、健康を保っているんですね。
最近は、腸内フローラ、皮膚フローラについてTV番組でよく取り上げられています。
腸内フローラが乱れると、便秘や下痢だけでなく生活習慣病や老化などにも関係すると言われています。
肌フローラが乱れると、肌荒れや吹き出物などを引き起こすと言われています。
今回は、子宮内膜にいる細菌、つまり子宮内フローラが生殖に大きな影響を与えているかも知れないという研究について紹介します。
細菌環境と不妊治療の関係性
今回の論文では、
・子宮内膜と膣の細菌環境の違い
・子宮内膜の細菌環境が性ホルモンの制御を受けているか
・子宮内膜の細菌環境が及ぼす生殖医療 体外受精への影響
について研究しているものです。
Am J Obstet Gynecol. 2016 Dec;215(6):684-703. doi: 10.1016/j.ajog.2016.09.075. Epub 2016 Oct 4.
Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure.
Moreno I, Codoñer FM, Vilella F, Valbuena D, Martinez-Blanch JF, Jimenez-Almazán J, Alonso R, Alamá P, Remohí J, Pellicer A, Ramon D, Simon C1.
女性の生殖器における細菌の役割で、よく知られているのが膣の自浄作用です。
健康な膣内にはラクトバチリスという常在菌がおり、女性ホルモンの働きで作られるグリコーゲンを発酵させて乳酸を作り、
これにより膣内を酸性に保ちます。
このことが、大腸菌などの病原菌の繁殖を防ぎ、膣内を清潔に保っています。
膣の細菌環境の乱れは、流早産などの産科合併症と関係があるとされています。
これまで、子宮内膜の細菌についてはあまり調べられてきませんでした。
この論文では、従来の細菌培養とは異なり、次世代シークエンサーという遺伝子を調べる機械で、
子宮内膜から採取した組織にいる細菌のDNAを調べ、子宮内膜にどのような細菌環境があるかを調べました。
この研究グループは当院で行なっているERA(子宮内膜受容能検査)を依頼しているグループで、ERA検査と同様の検体を使って研究を行っています。
子宮内膜の細菌環境と不妊治療の関係性は…
論文の研究方法と結果です。
①13人の妊娠歴のある女性から黄体ホルモン投与後2日目着床期前と7日目着床期後の細菌を調べた結果、
膣と子宮内膜の細菌環境はラクトバチリス優位であることは共通ですが、その割合や他の細菌の種類などは差異があり、異なる細菌環境でした。
筆者らは他の論文を参考に、ラクトバチリス優位な子宮内膜(ラクトバチリスが90パーセント以上、lactobacillus dominant microbitoa):LD群と
ラクトバチリスが優位ではない子宮内膜(90パーセント未満である)非LD群に分類しました。
②22人の妊娠歴のある女性から44のサンプルをとり調べました。
黄体ホルモン投与後2日目着床期前と7日目着床期後の細菌を調べました。
結果、両者に有意差はなく、子宮内膜の細菌環境は性ホルモンによる制御は受けていないという結果でした。
③体外受精中のERA検査子宮内膜受容能検査で受容能ありとされた女性35人から41サンプルを調べました。
非LD群では体外受精における着床率、妊娠率、妊娠継続率、生児獲得率が有意に低くなりました。
LD群 vs 非LD群
着床率 60.7vs23.1% p=0.02
妊娠率 70.6vs33.3% p=0.03
妊娠継続率 58.8%vs13.3% p=0.02
生児獲得率 58.8%vs6.7% p=0.002
論文では、子宮内膜にも膣と同様の自浄作用あるのではと、子宮内膜の酸性度を測定しましたが、
LD群と非LD群では差がなく、非LDの細菌が起こす炎症が病因ではないかと筆者らは推測しています。
最後に、今回の研究は、子宮内膜の細菌環境が不妊原因の一つであることを示唆しています。
論文では治療法については記載されていませんが、今後、治療法についての研究が進むだろうと考えられます。
子宮内膜の細菌環境の検査は、まだ日本の臨床の現場では実用化には至っておりませんが、
今後研究が進み、新たな治療の一角を担う日が来るかもしれませんね。