基礎知識

体外受精の安全性 乳がんとの関係

 

乳がんは女性に発症する癌としては罹患率1位です。

芸能人や著名人の乳がん闘病生活が話題にもなっています。

乳がん発症のリスク因子に体外受精でもよく登場する女性ホルモン(エストロゲン)があげられることから、

体外受精を行っている方からも乳がんの発症と治療との関連を質問される事があります。

参照:性腺刺激ホルモンについてのまとめ

 

今回紹介する論文はオランダで行われた体外受精と乳がん発症の関連を調査した、研究結果です。

参照元:Ovarian Stimulation for In Vitro Fertilization and Long-term Risk of Breast Cancer

この研究はJAMA(The Journal of the American Medical Association)という、非常に権威の有る医学雑誌に掲載されました。内容は以下の通りです。

 

【対象】

A)体外受精グループ:オランダの12のIVFクリニックで通常の卵巣刺激を用いた体外受精を受けた女性19,158名

B)非体外受精グループ:オランダの2つのクリニックで一般不妊治療を受けた女性5,950名

A)の詳細

  • 治療期間1983~1995年
  • 平均フォローアップ期間23.5年
  • 平均フォローアップ終了年齢53.8歳
  • 未経産38%

B)の詳細

  • 治療期間1980~1995年
  • 平均フォローアップ期間20.7年
  • 平均フォローアップ終了年齢55.3歳
  • 未経産28%

【方法】

体外受精グループの乳がんリスクを一般集団と非体外受精グループと比較

【結果】

体外受精を行っても乳がん発症リスクは上昇しない

① 体外受精グループで619名、非体外受精グループで220名の乳がん発症を認めた。

② 一般集団と比較して体外受精グループでの乳がん発症リスクの上昇なし。

③ 非体外受精グループと比較して体外受精グループの乳がん発症リスクの上昇なし

それでは、治療開始からの期間、体外受精回数、採卵数、出産歴との関連はどうでしょうか。
④ 治療開始20年以上でも乳がん発症リスクの上昇なし。

⑤ 採卵回数が7回以上で有意に乳がん発症リスクが低下する(ハザード比0.55)。

⑥ 採卵数4個未満の患者は有意に乳がん発症リスクが低下する(ハザード比0.77)。

⑦ 経産婦では有意に乳がん発症リスクが上昇(ハザード比1.35)するが、これは体外受精グループと非体外受精グループ間で有意差なし

(つまり、治療によらず妊娠自体がリスクを上昇させる)。

これらの結果はこれまでの報告と反するものもあります(経産婦はリスクが低下する、FSH製剤はリスクを上昇させる)。

しかし、これだけ大規模で長期にわたる解析結果は信頼に足ると考えられます。

 

現時点では私たちは乳がんのリスク上昇を心配すること無く、生殖医療を提供できると考えてもよいと考えられます。

 

妊活ノート編集部

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