妊孕性温存の手法の1つとして注目されている卵巣凍結。
その高い妊孕性温存、副作用などについて解説していきます。
卵巣凍結とは
卵巣凍結とは、卵巣凍結保存・融解移植全般を指しますが、ここでは特に重要な卵巣の摘出から凍結保存について解説します。
おおまかな流れ
卵巣凍結は、がん患者さんをはじめとしたこれから卵巣の機能が著しく低下する可能性が高い患者さまに対して、
もともとのご病気の治療開始の前に片側卵巣の一部もしくはすべてを摘出し凍結保存します。
そして、もともとのご病気の治療が終わり、克服したのちに凍結しておいた卵巣を融解して元の体内に移植し、
卵巣の機能を再度回復させることを目的としています。
対象年齢は0歳から37歳まで
卵巣組織自体を凍結保存するこの技術は排卵しているかどうかにかかわらず実施が可能であるため、
原則的には0歳から適用が可能になります。つまり、思春期前(排卵していない女性)にも適応ができるということです。
そのため、従来妊孕性温存が難しいとされていた小児白血病などの小児がんについても適応が望まれています。
思春期前の患者さまにとっては、前提として保護者の立ち合いおよび同意が必要になるほか、
16歳以上の未成年の患者さまにおいては、インフォームドアセントをとることを推奨しています。
また、未成年時に手術をし、保存期間中に成人となられた際には、改めてインフォームドコンセントを得るものとしています。
こうした心理的なフォローも妊孕性温存には欠かせません。
治療期間が短い
卵巣凍結のために排卵誘発を行う必要はありませんし、
また月経周期に左右されることもありませんので、短期間で治療実施が可能となります。
そのためもともとのご病気の治療開始までの時間的猶予がない場合においても、
適応が可能といわれています。
ただし、卵巣の摘出や部分切除は腹腔鏡手術が必要になり、原疾患の治療後も再度手術が必要となるため、
身体への負担は大きいものであることを念頭におかなければなりません。
ただし、婦人科系がんでの場合は、がん治療の手術の際に、卵巣も一緒に摘出することは難しいことではなく、
体への追加的負担もほとんどないとされています。
卵巣凍結の効果 従来治療との違い – 高い妊孕性温存–
従来の卵子凍結・受精卵凍結との違いは、卵巣機能の回復が望まれる点です。
2004年に初めて出産例が報告され、現在までに約30例の報告がありますが、
卵巣組織を移植された症例に関する検討では、90%以上の患者さまで卵巣機能が回復したと報告されており、その有効性が注目されています。
卵子凍結および受精卵凍結においては、生殖補助医療の適応が必須になります。
しかし、卵巣凍結を行うことによって、卵巣機能が回復した場合、自然妊娠が可能になります。
文字通りの妊孕性温存という意味では、もっとも効力の高いものといえます。
状況に応じて、もちろん体外受精も可能になるため、患者さま自身の選択肢が広がります。
考えられるリスク
卵巣凍結については、まず症例数が少ないことが最大のリスクであるといわれることも多くありますが、
最新の情報では95人以上の健康な赤ちゃんが出産に至っていることが確認されています。
一方で、凍結した卵巣組織に微小残存癌病巣(MRD: Minimal Residual Disease)が混入する危険性が指摘されています。
つまり、凍結保存している卵巣組織にがん細胞が転移しており、原疾患の治療後に再度持ち込んでしまうのではないかというものです。
これにより、疾患の再発リスクがあるとされており、特に白血病や卵巣癌などではがん細胞混入のリスクが高いため、
卵巣組織凍結および移植は推奨されておりません。
一方で、諸外国の医療機関の報告によると、初期の乳癌がん患者における卵巣組織凍結の安全性は高いと判断されています。
ここでも大切になるのは、妊孕性の温存を考えつつ、何よりも原疾患の治療を考えることを忘れてはならないということです。