無精子症や重度の乏精子症の場合、精巣精子採取術前に精子を回収できる可能性を探るためのY染色体の遺伝子
(Azoospermia factor/AZF)欠失の有無を調べる検査をすすめています。
これは、血液検査で調べることができますが、健康保険適用外になります。
AZF(Azoospermia factor)とは
AZFとは、男性の性染色体であるY染色体上に存在する、遺伝子です。
最近の研究によって、この遺伝子の欠失が無精子症と関係があることがわかってきました。
当院では、金沢大学などと連携して、当研究を行っています。
欠失する部位によって異なる
AZFの長腕部分にはAZFa,b,cの遺伝子があります。
いずれの領域が欠失しても無精子症となるわけですが、手術によって精子が回収できるかどうかは異なります。
万が一、AZFaやAZFbの欠失を認めた場合、精巣から精子を回収する手術をしても、
精子を回収できる確率がほぼ0%と言われております。
従って、AZFaとAZFbの欠失の場合は、通常、精巣精子回収手術の適応となりません。
事前の遺伝子検査によって、手術の適応を見極め、不必要な手術を避けることにもつながります。
AZFc欠失の場合は、逆に精子を回収できる確率が高くなる傾向があります。
この場合でも、男の子が生まれた場合、その男のお子さんにもAZFcの欠失を認めます。
つまり遺伝していくことになるため、慎重にFollowしていくことが大切です。
このAZFc欠失ですが、無精子症患者や高度乏精子症患者の約10%にみられます。
ここで一つ論文をご紹介します。
Molecular Human Reproduction 21:553-562,2015
この論文では6名の完全なAZFc欠失患者の精祖細胞と全く正常な男性の精祖細胞を18日間と48日間体外培養して比較しても、同様の特徴を示した。
つまり、この結果からAZFc欠失は体外での精子形成になんら影響を及ぼさなかったと結論づけています。
これからはAZFc欠失の患者さんは、安心してMicro TESE-ICSIの治療を受けられますね。