妊孕性温存について考える

日本に必要な卵巣凍結を実施する拠点数について考える

ASPIRE2017Kuala Lumpur


今回のASPIRE(アジア太平洋生殖医学会)にて、京野理事長のポスター発表がありました。

 

(写真は京野アートクリニック高輪でのもの)

今後の日本における妊孕性温存、とくに卵巣凍結における提言をしております。

 

現在考えられる日本における最適な卵巣凍結のあり方について

非常に大きなテーマですが、2000年以降、妊孕性温存をライフワークとして取り組み、

世界各国と交流を持ってきた京野理事長ならではの切り口で、話が展開されています。

 

①凍結法における世界との比較

世界と日本の比較でまずはじめに異なるのが、凍結方法であることはかねてから報告している通りです。

世界の症例のほぼすべてが緩慢凍結法で行われており、日本のみガラス化法にて行われています。

もちろん、その影響が移植を受けた女性や生まれてきた赤ちゃんに影響があるかどうかは、

その子が大きくなるまで、今からであれば20年後等にならなければわからない点もあるかもしれませんが、

現時点でガラス化法にて行った場合に、凍結卵巣組織に凍結保護剤の残存が確認されていることを無視できませんし、

先行する世界各国の緩慢凍結法を実施しない理由もないのです。

 

②センター数における世界との比較

現在ではドイツやデンマークが卵巣凍結においては、もっとも先進的な取り組みをしている国といえますが、

実際にドイツのモデルを日本に当てはめた場合の比較を行っています。

人口動態、そしてそこから考えられる卵巣凍結が適応となる人数を勘案しますと、

やはり日本に必要なセンター数は2-3施設に集約していくべきであろうと考えています。

 

がん患者の内訳から想定される卵巣凍結が必要になる人数は多く見積もっても200-300人/年程度と考えられます。

それを現在、都道府県ごとに分けて考えていくことになれば47センターが必要となります。

1施設あたり10もない症例数を分け合ってしまうことで、症例や経験の分散となってしまうことが懸念されます。

また、コスト的にも無駄な部分が多くなることも忘れてはいけません。

 

コスト面から見たセンターを維持する負担


凍結保存された卵巣は、原疾患の治療後に融解され移植されるわけですから、卵巣凍結保存センターは、長い期間存在しなければなりません。

当院での実際の費用面から考えた際に、その維持コストについて検討しています。

凍結保存するためには、その技術を有した培養士、培養環境、保存を維持するためのエネルギーなど様々なものが必要になります。

その結果、1つのセンターを30年間維持しようと考えた場合に、5億円ほどかかる可能性があります。

これを現在各都道府県に1センター展開しようとしているわけですから、合計で235億円ということになります。

 

また、世界と比較すると、日本の卵巣凍結にかかる費用は突出して高いのは意外と知られていません。

実際に高福祉で知られる北欧諸国については、無償で治療が受けられますし、ドイツやイスラエルにしても、

多くは保険によって賄われています。しかし、日本はすべてが自費での治療となります。

卵巣凍結は、摘出・移植ともに内視鏡下での手術が必要になり、概算では60万円程度が摘出時・移植時にそれぞれ必要となります。

その後、摘出された卵巣は一定期間凍結保存をする必要があります。

このすべてに費用がかかるわけですから、身体的・心理的な負担だけでなく、患者さまの経済的な負担も大きいわけですね。

それがゆえに、患者さまにとっても選びにくい選択肢となってしまう可能性もあります。

 

一案ではありますが、こうしたセンター開設における非合理的な部分を見直し、

そうしたコストが患者さまが治療を受けやすくなるような原資になっていけば、

より良いの妊孕性温存の在り方ともつながっていくことではないかと考えられます。

 

京野 廣一

京野 廣一

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京野アートクリニック(仙台、高輪) 理事長
1978年に福島県立医科大学を卒業し、東北大学医学部産科婦人科学教室入局。1983年、チームの一員として日本初の体外受精による妊娠出産に成功。1995年7月にレディースクリニック京野(大崎市)、2007年3月に京野アートクリニック(仙台市)を開院し、2012年10月に京野アートクリニック高輪(東京都港区)を開院いいたしました。

妊活ノート編集部

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