今回は以下の論文を参考にしつつ、精子凍結の有効性について考えてみたいと思います。
Muller I et al. Semen cryopreservation and usage rate for assisted reproductive technology in 898 men with cancer.
Reprod BioMed Online (2016) 32:147-153
男性における妊孕性温存は、主に精子凍結が選択されることとなります。
女性が卵子凍結をするためには、採卵を行う必要があり、複数の卵子を得るためには、
卵巣刺激を行う必要がありました。
しかし、男性については、射精障害等がなければ、いつでも精子を体外に出すことができるのが特徴の一つです。
参照:妊孕性温存について考える 卵子凍結について
妊孕性温存における精子凍結の実際
この論文は、オランダで1983年から898名のがん患者の精液を凍結保存して、
その後に生殖補助医療(ART)にどのくらい使用され、その結果はどうだったかと言う論文です。
患者は精巣腫瘍 393名、ホジキンリンパ腫139名、白血病 89名、非ホジキンリンパ腫80名、
骨軟骨腫瘍 37名、中枢神経腫瘍 34名、消化器疾患 33名の順で、平均年齢は29±8歳でした。
精液を凍結保存していた898名の内、10.7%(96名)の精液がARTで使われ、
34%(304名)の精液はARTに使用されることなく廃棄され(理由は死亡、回復、自然妊娠、挙児希望無し)、55%(498名)が凍結保存継続中です。
96名の内78名がユトレヒト大学で治療を受け、77%(60)が子供をもうけ、23%(18)が子供をもてませんでした。
人工授精、体外受精、顕微授精での生産は各々13, 19、28でした。
ARTが行われた時点での女性の年齢は31.2±4.6(21-43)歳、精液凍結からART使用までの期間は4.8(0.5-13.3)年でした。
女性の年齢も妊娠結果には様々な影響があることはいうまでもありません。
結論としてARTに用いられる確率は10.7%と低いが、ARTに使用された場合の成功率は満足のいくものでした。
当院でも140名以上のがん患者が精子を凍結保存しています。
できれば、化学療法前に精子を凍結保存しておきたいものです。