妊孕性温存の視点から考えた際の卵子凍結について解説したいと思います。
卵子凍結とは
卵子凍結とは、一般に未受精卵の凍結保存というようにも表現されます。
その名の通り、受精させる前の卵子を凍結・保存しておくという手法です。
社会的な適応も含めて、卵子凍結からの出産は1000名以上の実績があるため、手法として確立されていることが最大のメリットです。
2004年、日本癌治療学会、日本産科婦人科学会、日本泌尿器科学会の3団体が
「がん患者さんの妊娠できる能力を残すために卵子凍結は施行されるべきである」と発表しております。
(外部参照)医学的適応による未受精卵子および卵巣組織の採取・凍結・保存に関する見解(日本産科婦人科学会)
一般には、がん治療にかかわるケースよりも「卵子の老化」とともに取り上げられることが多いのが実情であり、
いわゆる社会的な適応については否定的な意見も多くあります。
卵子凍結が適応となるケース
①対象年齢は13歳以上から40歳まで
13歳というのは、個人差がありますが、つまり「排卵しているか」ということが適応の分かれ目になります。
40歳という上限については、医学界での共通見解となっているもので、それはこれまで証明されている出産率に起因しています。
卵子凍結を行った場合、受精するには体外受精を行う必要があります。
しかしながら体外受精の出産率は、30代から徐々に低下をはじめ、36歳から急激に低下します。
36歳で15%前後、40歳で8%弱、42歳で5%というように推移していきます。
年齢と妊孕性は関連が深く、これが卵子の老化と報じられる裏付けとなっているのです。
参照:年齢と妊娠率の関係
②未婚の女性
なぜ未婚の女性に限るかというと、既婚の女性であれば、より効果的な「受精卵凍結」という方法があるためです。
出産するためには、大きく受精・着床・出産とありますが、この受精のステップを通過した胚を凍結させることができ、
出産を望まれるのであればより効果的な方法であるためです。
しかし、一部では妊孕性温存、つまりがんなどの難しい病と向き合う中で、
パートナーとの関係性が変化していくこともありますので、一部は受精卵凍結で、一部は卵子凍結でということを
考えられる方もいらっしゃるのは事実です。
治療方法ありきでなく、あくまでもご本人の意思、夫婦や家族、そして主治医の方などとも相談しながら
選択していくことがよいかと思います。
③治療期間
治療の期間には少なくとも2週間以上はかかります。
一般的に乳がんなどの場合には、治療開始までに若干の猶予がある場合もあります。
1個の卵子から妊娠できる可能性は約5%しかないともいわれているため、実際に出産に至ることを考えると、
20個近くの成熟卵の凍結を要するためです。
そのため、卵子を凍結したから妊娠ができるということではなく、むしろ妊娠できない可能性が高いことも視野に入れておかなければなりません。
また、治療期間中に、卵巣刺激を行います。
卵巣刺激とは、排卵誘発剤(おもに注射)を使い、よりよい卵を多く育てるための一連の流れのことを指し
通常、毎月1個の排卵であるところを、刺激により成熟する卵の数を増やして卵を体の外に取り出すというものです。
時間が限られた中で効率的に卵子を取ろうということであればランダムスタートという方法もあります。
また、一部のがんの種類によっては、排卵誘発剤によってがんの増殖を促進してしまうことを指摘されているため、
そうした場合には排卵誘発を用いない卵巣刺激法として未成熟卵子の成熟体外培養(IVM)という方法もあります。
卵子凍結に関して言えば、治療数も非常に多くあります。
患者さまたちと主治医、そして私たちのような生殖医療医が連携をしながら、よりよい未来につながる治療を選んでいけるのがベストではないでしょうか。