今回から不定期ではありますが、妊孕性温存について考える連載コーナーを開始していきたいと思います。
妊孕性(にんようせい)とは、妊娠する力のことをさします。
当院では、理事長の京野がライフワークとして取り組んでいることですが、
一般的にはあまり聞きなれないことだと思います。
しかし、妊孕性温存について考えなければならなくなるときは、
あまりにも突然にやってきますし、誰にでも起こりうることです。
がんは、生存率が高まったとは言え、将来への恐怖を強く伴う疾患です。
若年であるがために治療も速やかに行う必要があります。
妊孕性は、このがん治療の副作用として、失われてしまう可能性が高いのです。
つまり、将来への恐怖にかられた状況の中で、未来の妊娠や出産のことを同時並行で考える必要があるということです。
それがどれほど困難を伴うのかは、想像することさえ難しいかもしれません。
ですから、必要のないように感じてしまうかもしれませんが、
すべての方々に見てほしいと思っています。
妊孕性とは
繰り返しになりますが、妊孕性とは、簡単に表現すると妊娠する力のことを指します。
女性においては、子宮・卵巣(および卵子)が密接に関係しています。
子宮は、出生するまでの間、赤ちゃんを育むための女性特有の臓器です。
妊娠するためには卵子が必要ですが、その卵子は卵巣の中に「原子卵胞」としてあるものです。
男性の精子と比べ、卵子の老化などが叫ばれやすいのは、卵子が増えることのない細胞であるためです。
生まれたときに40万個ほどある卵子は一つの目安となる35歳には1-2万個まで減少するとされています。
現代の医学では増加させることのできる術はないとされています。
つまり、妊孕性は一度失われてしまうと取り戻すことができないというです。
妊孕性温存とは
がん患者さまは年々増加しており、2015年の報告では、2014年よりも10万症例増えたという報告もなされました。
同時に、がん治療の革新的な進歩によって、がんを克服する患者さまも著しく増加しております。
その傍らで、妊孕性が廃絶されてしまうなどの副作用があることが報告されています。
抗がん剤の投与開始と共に生理が止まるということはよくあることで、なかにはそのまま早期閉経してしまうことがあります。
卵巣をはじめとした性腺組織は化学療法や放射線療法に対して非常に影響を受けやすいことで知られており、
それが非常に問題視されるのには、その影響が永続的となってしまうためです。
化学療法の結果、揮発月経という月経周期が正常よりも長い状態で、医学的には39日以上の月経や、
無排卵症などの卵巣の機能不全の発症頻度は20-100%という報告もなされています。
卵巣に放射線が照射された場合、卵巣の機能が著しく低下し閉経してしまうことも確認されています。
つまり、化学療法等の結果、妊孕性が廃絶されてしまう患者さまが増え、長期にわたってQOLの低下を招くともいわれています。
もちろん、最大の目的は原疾患を治療し乗り切ることであることを忘れてはいけません。
妊孕性温存のための生殖医療としては、
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卵子凍結
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受精卵凍結
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卵巣凍結
があり、近年注目を集めているのが卵巣凍結です。
妊孕性温存と生殖医療
妊孕性温存と生殖医療とりわけ卵巣凍結はまだまだ認知されている方が少ないのが実情です。
原疾患の治療自体が困難なものも多く、かつ治療には時間的な余裕も精神的な余裕もないため上に
治療可能な医療機関自体が大変少ないためです。
(詳細は日本がん・生殖医療学会より
2017年4月7日現在 未受精卵子・卵巣組織 32施設、未受精卵子のみ 37施設、卵巣組織のみ 1施設)
しかし、事実として抗がん剤によって誘発される(化学療法誘発性)無月経は、化学療法開始以後1年以内に生じる3ヶ月以上の無月経と定義され、
その発生頻度は患者の年齢、抗がん剤の種類、抗がん剤の投与量に依存すると考えられていますが、20%から100%の患者さんに発症するといわれています。
(聖マリアンナ大学 鈴木直教授報告より一部抜粋)
一方、欧米においては非常に進歩が速く、卵巣凍結だけをとってもすでに95人以上の挙児を得たという
報告がなされ、すでに研究段階は終えたという見解さえあるほどです。
がん治療を行うにあたって、同時に考えなければならない「妊孕性温存」とどう向き合うか。
正しい知識を身に着け、より良い治療を選択することが求められています。