肥満と不妊については、女性が取り上げられることが多く、
女性の肥満が、卵子の質の低下を通して妊娠率を低下させたり、
妊娠しても妊娠中や分娩時の合併症をおこしやすくしたりすることは、よく知られています。
近年は欧米だけでなく、中国などのアジア諸国でも肥満が急増中で、日本では成人における肥満の割合は約30%。
特に最近30年間の推移を見ると、成人男性の肥満が増え続けているのが実情です。
「BMI25以上」と、内臓脂肪蓄積の指標となる「ウエスト周囲長 男性85㎝以上、女性90㎝以上」が現在の肥満の定義です。
男性の肥満が与える不妊への影響について
男性の肥満と不妊の相関について検証された論文で、
Paternal obesity negatively affects male fertility and assisted reproduction outcomes:
a systematic review and meta analysis. Reprod Biomed Online, 2015 in press.
というものがあります。
この論文では、現在までに報告された複数の研究を総合的に分析(メタ分析)し、男性の肥満が姙孕能に与える影響を論評しています。
卵子の質、卵の質だけでなく、精子の質の低下についても世界各所で報告されていますが、
同時に男性の肥満率も上昇してきており、内分泌かく乱物質を含めた環境の変化と合わせて関連性が指摘されています。
調査の手法として、BMI30以上を肥満として、25以下を正常群とした場合の男性の肥満と不妊、
受精から受精卵の発育、妊娠率、生産(せいざん)率、児発育、
精液所見やDNA損傷率、核の凝縮能やミトコンドリアの機能などと肥満の関連を研究した
30の論文計115,158人というかなり大量のデータをまとめて、
結論を導き出したものです。
男性の肥満と不妊は関係があるのか?
結果、一般男性全体と比べ、肥満者は1.66倍不妊になりやすく、
体外受精を実施する不妊男性では、生産率が35%低下、
流産や死産が10%増加していました。
通常の精液検査では、肥満と正常体重男性との間に違いが認められませんでしたが、
肥満男性では精子の奇形率やDNAの損傷率が上昇したり、ミトコンドリア機能が低下したりと、
これらが不妊や生産率低下の原因と考えられます。
こうした結果から、男性の肥満は姙孕能に負の影響を与えることは明らかと言えます。
そのため、肥満である男性は、体重をコントロールすることが、とても重要な要素と言えますが、
禁煙同様に意識的には簡単と思いがちであるものの、対策がいっこうに進まないこともままあります。
医師や専門家を活用する
「わかっちゃいるけど、はじめられない」
男女ともに、このように肥満が体に悪いことはなんとなくはわかっていますが、
その対策が往々として進まないことがよくあるのではないでしょうか。
一般的な傾向として、論理的で現実的な思考が強いとされる男性は、
「なんとなく危険そうだけど、なんとなく大丈夫そう」という曖昧な状態では行動を起こしにくいのかもしれません。
それを行うことのストレスの方がよほど体に悪い、というような非論理的な意見も少なからずあります。
禁煙などの際にもよくある反応だと思います。
ただこうしたときに感情的に訴えても、男性は動かないものです。
明確なデータを示し論理的に説明したり、権威的な方からの意見である方が飲み込みやすいともいわれます。
禁煙外来などは典型的な例かもしれません。
男性自身の意識を変えるのはとても難しいことですが、
専門家の診断やセミナー、イベントなどを活用し、男性の参加を促しやすくする努力も必要ですね。