体外受精等の高度生殖医療における卵巣刺激の目的は
「より多くの卵(卵子)をリスク少なく採取するため」に行われます。
一般不妊治療の卵巣刺激は、確実に一つの卵子を育てるために行われていたことと比較すると
大きく意味合いが異なります。
どうして卵巣刺激を行うのか、その目的は?
体外受精を行う場合は、毎月1個自然に育つ卵子を採取する方法(自然周期)もありますが、
通常は排卵誘発剤(FSH製剤、hMG製剤、クロミフェンなど)を使って卵巣刺激を行い、
いくつかの卵胞(卵子の入っている袋)を育てて採卵に臨み、複数の卵子を得て治療計画を立てることが多いです。
実際に日本産科婦人科学会の報告には以下のようなものがあります。
おおよそ4割の方が、刺激周期で採卵をしています。
そして、妊娠した方の刺激周期を見ると、
実に7割以上の方が刺激周期であることがわかります。
理由としては、
凍結技術の進歩における移植法の確立
が挙げられます。
卵巣刺激・採卵の負担やリスク、デメリットは
卵巣刺激の前に簡単に採卵の負担について理解しておくとよいと思います。
刺激するのか、自然周期なのかにもよりますが、
一般的な刺激の場合で考えると
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毎日注射を打つ(自己注射あるいは通院による注射)ことの物理的、精神的、経済的な負担
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卵巣過剰刺激症候群という副作用発症リスク
注射部分は刺激種類によって、内服薬に変わったり、あるいはそもそもなかったりなどがありますが、
いずれにしても上記の負担が確実にかかります。
とりわけ、注射の身体的・精神的・経済的なリスクは大きくなりますし、
採卵日には当然仕事を休むなどの調整も必要になります。
そうした負担があるため、可能であれば採卵は一度で済ませたいと考える人も少なくないのです。
(もちろん、複数回採卵を行っても、一回あたりの負担を減らしたいので、自然周期でという方もいますし、
卵巣予備能によっては、低刺激の方が最適であること場合もあるので、刺激周期ありき、自然周期ありきということではありません。
あくまでも、診察の上で、最適な卵巣刺激法を選択することが肝要です。)
簡易まとめ 卵巣刺激法別のメリット・デメリット
刺激周期(アンタゴニスト法、ロング法、ショート法)
メリットはより確実に複数の卵子を得ること、それがより良い受精卵を得るためには必要だと考えられます。
あるいは、凍結しておけば必要なタイミングで再移植も可能となります。
デメリットは、毎日の注射による負担および卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症リスクです。
上記の3つの方法の中でもアンタゴニスト法はOHSSの発症リスクを低めるとして、主流になりつつあります。
低刺激
メリットは注射の回数が少なく、結果卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症リスクが低いことです。
デメリットは、得られる卵の数が少ない可能性があり、結果再度採卵を行う可能性が出ることです。
自然周期
メリットとしては、注射による負担が最も少なく、毎月採卵を行えることです。
デメリットとしては、採卵しても原則卵胞が一つであるため卵子が採取できないリスクがあり、
妊娠しなかった場合には再度採卵からやり直すため時間を要する点が挙げられます。
未成熟卵成熟体外培養(IVM)
最近になって注目を集めている方法です。
メリットとしては、卵巣過剰刺激症候群になる可能性が少なく、当然注射による負担もありません。
物理的・経済的な負担ももちろん、仕事を調整するなども必要ないため、負担は低いと考えてよいでしょう。
一方でデメリットとしては、胚移植当たりの妊娠率が低いことが報告されており、まだ検証が必要でもありますし、
高度な培養スキルが必要なため、どこでも受けられるというものではありません。
不妊治療や妊活は豊かな人生を送るための通過点であり手段であることを忘れずによく考え
どの方法がよいかは医師と相談の上、決定していくことが望ましいです。