治療の概要
人工授精は正確には、配偶者間人工授精(AIH:Artificial Insemination of Husband)を指します。
人工、という言葉の響きから、人工的な印象を受けるかもしれませんが、治療内容としては、より多くの運動良好精子を子宮内に注入するというものです。
一般的には、タイミング療法の次にステップアップで選択される治療であり、副作用等も少ない治療です。
そのため、体外受精のように、飛躍的に妊娠率が上がるわけではなく、タイミング療法の1回あたりの妊娠率が約2%程度であるのに比べて、人工授精の1回あたりの妊娠率は5-10%となります。実際に当院の実績で見ても、10%程度となります。
したがって、1回では結果が出ないことも多く、何回か続けて実施することがあります。
それでも難しい場合には、ステップアップし体外受精を検討する方もいます。
ステップアップの目安は3-5回と考えられています。
治療法としての位置づけ
この治療の歴史は古く、日本でも20世紀後半から行われていたという記録が残っており、十分に確立された治療法と考えられています。
どのような方に適応となるか
- 軽度の男性不妊
- フーナー検査不良
- 性交障害
- 原因不明(タイミング法で妊娠に至らない)
の方が適応となります。
人工授精実施のための準備
- ご夫婦の受診、男性の精液検査
- ご夫婦のスクリーニング検査
- 発行一年以内の戸籍謄本原本の提出
- 治療の同意書(夫婦での署名が必要)
上記のいずれが欠けてしまったり、治療当日に間に合わないと、治療は実施できません。
スクリーニング検査については、検査結果がでるまでに1週間程度の時間がかかることがあるため、期間に余裕をもって受診ください。
来院スケジュール
必須来院日は
排卵前の卵胞チェック(月経10-12日目頃)、人工授精当日(月経14日頃)の2日間となります。
その後は処方された抗生剤、注射や飲み薬を使用いただき、感染症の予防と黄体ホルモン補充を行います。
人工授精実施から3週間経っても月経がこなければ妊娠の可能性があると判断されます。
妊娠検査薬で、検査陽性であることがわかった場合、すぐにご連絡いただき診察予約を取得ください。
体質やこれまでの治療経過によって、月経開始3日目頃の来院や卵胞チェックの回数が増えることがありますので詳細は医師と相談ください。
当日の流れ
- 持参された精液か、当院内にて採取された精液を洗浄濃縮処理(1-2時間)します。
- ご本人様確認の上、人工授精を実施します。注入する精液はわずかですので、殆ど痛みはありません。
- 実施後、安静にする必要はございません
※注意※
・精液を持参される場合には、精液持参の誓約書の提出が必要となります
・人工授精当日、既に排卵直後であった場合も十分妊娠が期待できるため、医師の判断で実施することがあります。
詳細は医師と相談ください。
身体的合併症と副作用
人工授精当日は、若干の出血をすることがありますが、子宮のびらんや操作の刺激によるものなので危険性はありません。ただし、量が多かったり、38℃以上の発熱や強い下腹部痛が続くようなときは、お電話にてご連絡ください。
人工授精を行うことで子宮外妊娠や先天異常となる確率は自然妊娠と比べて変わりません。
排卵誘発剤を用いて人工授精を行う場合には、卵巣過剰刺激症候群と多胎妊娠の副作用が考えられます。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
排卵誘発剤の投与により卵胞が過剰に発育し、卵巣が腫れ上がり、血管内の水分が卵巣から浸み出し、腹腔内に溜まってしまいます(腹水貯留)。そうなると、血管内の水分がなくなりますので、血液はドロドロの状態になり、血栓になりやすくなります。
なお、卵巣過剰刺激症候群は妊娠すると更に重症化することで知られています。
重症化が予測される場合には、人工授精はキャンセルとなることもあります。
原則として、当院では薬剤の調整、変更等により重症化を防ぐよう対応しています。
多胎妊娠
多胎とは、双子や三つ子などの妊娠のことです。排卵誘発剤を用いることで、2つ以上排卵する可能性が高まりますので、当然多胎率は高まります。
多胎妊娠によって、妊娠時のリスクは母子ともに高まります。
そのため、ご本人の希望がある場合でも、当院では極力多胎妊娠を避けるよう心がけており、リスクが高いと判断した場合には、人工授精をキャンセルすることもあります。
なお、そのような努力をしていても多胎妊娠を完全に防ぐことはできません。
どうしても、多胎妊娠のリスクが心配な方は体外受精の方がそのリスクは低下するものと考えられます。
代替手段
人工授精の代替手段としては、妊娠率が高まるものでは体外受精や顕微授精がありますし、妊娠率が低くなりますがタイミング法を実施いただくことも考えられます。