妊孕性温存について考える

がんでもママパパ 2020年の学会活動のご報告

毎年、この季節は妊孕性温存に関する学会が目白押しな季節です。

2月は第10回 日本がん・生殖医療学会が大宮で開催され、

その翌週には第16回 日本生殖心理学会されました。

3月には第2回AYAがんの支援の在り方研究会が開催されます。今回は新型コロナウィルスの影響を加味して、

Web開催となる予定です。

全国津々浦々から多くの医師や看護師、心理士、培養士などが集い、各施設のノウハウを共有する貴重な機会です。

今回、当院で参加させていただいている内容の一部を簡単にご紹介できればと思います。

 

①遠隔診療ツールを用いた生殖医療相談士による妊孕性温存患者さんへの情報提供


当院では全国から妊孕性温存を希望される患者さまがお越しになります。

妊孕性温存を検討されている患者さんの特徴は、

 

・不妊症ではない(不妊に関する常識が当てはまらない)

・妊娠や生殖という知識が比較的少ない

・病気の告知を受け止めるだけでとても大変

・意思決定までの時間がない(がん治療が最優先!)

 

などがあげられます。

そのため、通常の不妊治療の患者さんと同じようなプロセスでは、

患者さん自身が必要十分な情報から自らの意思で選択するという自己決定のサポートができません。

 

当院では2018年から、こうした事実を受け止め、初診にお越しいただく前の情報提供を生殖医療相談士が行うことで、

患者さんの自己決定をより充実したものにできるように支援しており、その活動について発表させていただきました。

 

2018年3月~2019年11月に当院への問合せは73件あり、

その内61名にこの情報提供を実施して、来院されたのは58名、

その内49名が妊孕性温存を実際に実施しました。

問合せから初診までは平均4日、治療実施までは平均24日であり、

この情報提供を挟むことによる治療の遅延はありませんでした。

 

実施した治療の内訳は、

卵巣凍結15名、

受精卵凍結19名、

卵子凍結15名、

精子凍結3名であり、

卵子あるいは受精卵凍結と卵巣凍結を共に実施した3名が含まれます。

最終的に問合せ時に希望していた治療と情報提供後に希望した治療が異なる方が9名いらっしゃいました。

 

実際に多くの患者さまの対応をさせていただいている中で、

説明の前に治療内容を十分理解できていると言われる方はほぼいません。

のため、こうした事前に情報提供をして、しっかりとご自身の中で検討し選択するというのは、患者さんの自己決定を支えるだけでなく、闘病後の人生の価値にもつながるものと考えています。

②妊孕性温存を検討するがん患者の心理的特性について


当院には、がん・生殖医療専門心理士が在籍しております。

妊孕性温存をして、その後妊娠を希望するに至るまでには、長い時間、いろいろなイベントがあります。

そうした状況の中で、継続的なサポートを実現するためにも、

医師だけではなく、看護師やがん生殖医療専門心理士といった多職種、複数のスタッフでのサポートを心がけています。

 

がんという病気は治療法が目覚ましく進化し、年々治る確率が上昇しつつありますが、診断を受けることによるショックは大きいことが想像されます。

また、生殖機能を喪失するかもしれないという告知も非常に衝撃的であることは想像に難くありません。

こうした二重の困難さを抱えた状況に患者さまはいらっしゃいます。

 

しかし、妊孕性温存を希望される患者さんの多くは活発な様子を示されることが実際には多くあり、

正しい心理支援を実現するには、実際の心理状態を理解する必要があります。

 

当院では心理検査を導入し、患者さまの心理理解に役立てています。

当院にて妊孕性温存検討中の患者さま23名と不妊症の治療患者さま29名とで、その傾向を比較してみると、の項目において有意差が認められました。これらによって、妊孕性温存検討患者は精神的な活動が活発になっている一方で自らが置かれた状況について不安定さを抱えていることが見受けられました。こうした状況を踏まえながら、医学的情報の整理と情緒的な折り合いをつけ意思決定を下すプロセスへの丁寧なサポートが必要だと考えられます。

 

もちろん、画一的に考えることはできませんし、目の前にいる方一人一人がまったく異なる状況ですが、こうした統計的な背景をスタッフで共有しながら、患者さんの心に寄り添う診療ができるように努めていければと思います。

 

③急性リンパ性白血病患者さまの卵子凍結、その後2人の赤ちゃんの誕生


当院で、2006年に急性リンパ性白血病に罹患され、その後の治療に骨髄移植を予定されている患者さまが来られました。

骨髄移植を行うと、ほぼ間違いなく絶対的な不妊となることが知られています。

当院で2回の採卵を行い、10個の卵子を得ることができました。

一般的に卵子凍結の場合、卵子1個当たりの妊娠率は5-10%前後と言われることが多くあり、

単純な確率論では、10-20個あれば赤ちゃん1人望めるのではないかという計算となります。

 

この患者さまは、2012年と2019年に出産され、現在2児のお母さんとなりました。

また、第三子に向けた受精卵も凍結できています。

患者さんの年齢によって大きく妊娠する力は異なり、急性リンパ性白血病などの血液疾患は若年者が発症されることも多いですが、

若い分妊娠する力も高いとも言えます。

がん治療を最優先に考えながら、ひとりひとりに最適な妊孕性温存の手段を提示し、

それを高い医療レベルで実現できるようにこれからも研鑽を重ねていきたいと思います。

今回は、当院の発表内容のご紹介ではありましたが、今後は当院が学会に参加した中で新しく得た知識なども紹介できればと思います。

 

妊孕性温存に関する問合せは、いつでもお気軽に以下までお願いいたします。

 

TEL:03-6408-4720

Mail:hope@ive-kyono.co

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