昨年末に当院では、日本産科婦人科学会の着床前診断(従来のPGD、現在のPGT-M&SR)の認定施設となりました。
実際の患者さんの例として多いのは、PGT-SR(均衡型相互転座による習慣性流産)の患者さんへの対応ですが、
今後、PGT-M(単一遺伝性疾患)についても注目されていくものと思います。
特に当院では、妊孕性温存に力を入れているため、BRCA1/2遺伝子変異の解析などへの適応が広がることを切に願っているところです。
今回は単一遺伝性疾患の一つである、多発性嚢胞腎と着床前診断について紹介させていただきます。
多発性嚢胞腎のための着床前診断
今回紹介するのは以下の論文です。
Factors influencing the clinical outcome of preimplantation genetic testing for polycystic kidney disease
V. Berckmoes et al.,
Human Reproduction, 30 March 2019 dez027,
多発性嚢胞腎(PKD)とは、
両方の腎臓にできた多発性の嚢胞が徐々に大きくなり、進行性に腎機能が低下する、最も頻度の高い遺伝性腎疾患です。
尿細管の太さ(径)を調節するPKD遺伝子の異常が原因で起こります。多くは成人になってから発症し、70歳までに約半数が透析を必要とします。
高血圧、肝嚢胞、脳動脈瘤など、全身の合併症もあり、その精査を行うことも大切です(東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センターより抜粋)
といわれていますが、PKDの女性には特別な出生率の問題はありませんが、男性のPKD患者は生殖器系の異常と不妊を示すことがあります。
つまり、男性不妊との関係が深いことでも知られています。
また、PKDにはいくつかの分類があり、常染色体優性PKD(ADPKD)について、今回主に報告されています。
この研究では、2005年1月から2016年12月までの43組のカップル(PKD1は33カップル、PKD2は2カップル、常染色体劣性PKD(ARPKD)は8カップル)の
91周期にPGTを行い、その後2017年末までの転院の追跡調査したというものです。
それらの結果として、
遺伝子解析の結果、545個の胚(93.3%)が診断され、そのうち215個(36.8%)が移植可能な胚でした。
新鮮な53サイクルで74胚を、そして凍結した33胚移植サイクルで34個凍結保存した胚を移植すると、
31名の単胎出産、2組の双胎出産および1組の継続妊娠で、38.4%の出生出産率となりました。
1回の移植あたりの臨床妊娠率については
グループA(男性がADPKD):45.9%
グループB(女性がADPKD):60.0%、
および移植ごとの出生出産率
グループA:27.0%
グループ:42.9%
とADPKDに罹患した女性パートナーとのカップルと比較して、ADPKDに罹患した男性パートナーとのカップルについて有意に低かった。
しかしながら、多変量ロジスティック回帰分析は、女性の年齢のみが出生時出産率と関連していることを示したと結論付けています。
ADPKDであっても妊娠する可能性はあり、それは医師により患者へ早期に提示されるべきだとしております。
男性の遺伝的疾患の問題もありますが、女性の年齢も大きな影響を与えることが懸念されています。
こうした海外のデータをもとに、日本でも疾患への適応が広がり、かつ患者中心のケアを両立できるのがベストではないでしょうか。