昨日、東京にて生殖心理学会学術集会が開催されました。
生殖補助医療の技術は驚くほどの成長を遂げ、様々な不妊の要因に対応できるようになったとは言え、
胚移植当たりの妊娠率はいまだに30-40%といわれ、成功率としては他の医療と比べ低いと言わざるをえません。
その中で、患者さんの心のケアに焦点を当て、活動している学会がこの生殖心理学会です。
医師だけでなく、看護師、培養士、検査技師、受付スタッフ等によって構成されており、この領域では日本最大級と考えられます。
その学会の年に一度の学術集会が昨日開催され、当院スタッフが特別賞を受賞しましたので、紹介できればと思います。
今年のテーマはTsu-na-gu(繋ぐ)
患者さんと医療者だけでなく、患者さんの家族、不妊治療と周産期医療など、
生殖補助医療は様々なつなぎ目が存在します。
そうしたTsu-na-guというテーマで今回は開催されました。
一部の内容について共有できればと思います。
教育セミナー①周産期から見た不妊治療(広尾日赤 宮内彰人先生)
ART妊娠は一般的にはHighRiskであると周産期では認識をしているそうです。
しかしながらそれは、凍結やICSIなどのART由来の技術によるものであるということよりは、不妊症であるということ、高齢であることという患者さん側の要因が大きいということでした。
しかし、当院でもそうであるように、ARTを必要とする大半の患者さんが当然不妊症であり、高齢であることを思うと、このことを説明する必要性は高いと思います。
宮内先生の説明の中には、様々なエビデンスが盛り込まれており、上記のART妊娠=HighRiskであることを意識づけられました。
年間30例ほどある妊産婦死亡の例をもとにご説明をいただいたり、品胎の症例を提示され、いかにリスクがあるか、それを承知で治療を受けるのか、ということを教えてくださいました。
挙児を得るために私たちはこの治療を患者さんへ提供していますが、
常にこうしたリスクを把握しながら、患者さんの視野を広げ、患者さん達と共有をしながら意思決定をしていく必要があるように感じられました。
教育セミナー②チーム医療における心理職の役割(埼玉メディカルセンター 花村温子先生)
心理職の役割として、「連携」の重要性を説かれていました。チーム医療の要諦として、「高い専門性+共有+分担・連携」というものを要素として掲げられていました。
そして印象的であったのが、このチーム医療の輪で患者さんを囲むのではなく、患者さんも一緒にその輪の一人として入ってもらい、
これからの妊娠・出産を一緒に考えていくというもので、最近話題になっているSDM(Shared Decision Making)と通じるものがありました。
父権主義(パターナリズム):お父さん(≒この場合お医者さん)の言うことは絶対、でもなく
お客様主義:お客様は神様です!のような考え方、でもなく
その間を目指していくような、患者さんの目的に同じチームとして向かうような医療が今まさに求められているように思います。
これは私たちも意識的に努力していく必要があり、患者さんにもこうした考え方をお伝えしていくことができれば、
とても良い関係での治療ができるのではないでしょうか。
教育講演 里親・特別養子縁組(聖マリアンナ医科大学(慈恵医大から国内留学 白石絵莉子先生))
特別養子縁組についての専門的な内容をお話いただきましたが、ここでは概略だけを紹介すると、やはり高齢患者さんの治療開始に当たってはできるだけ早い段階で、
ARTによる妊娠出産だけでなく、様々な情報提供を行うことでInformed Choiceにつなげようというものでした。
子の福祉の観点からは、まだまだ日本的な課題があるようにも思いますが、大切な情報の一つとは思います。
特に高齢での治療を当院で始められるとき、こうした様々な選択肢を一緒に考えていく必要があるように感じられました。
また、最後の表彰において、当院の菅谷のこれまでの多くの論文投稿が功績として認められ、
特別賞を受賞いたしました!!
これからも、臨床と研究の両方を大切にしながら、安心・安全で質の高い医療を提供していきたいと思います。