昨日まで岐阜で開催された第9回日本がん・生殖医療学会にて、
当院培養部の木戸葉澄が最優秀演題賞を受賞いたしました!
当院では、2000年から妊孕性温存に携わり、これまで多くのがん患者さまの妊孕性温存やその後の妊娠出産に携わってまいりました。
その集大成をこの度報告し、このような名誉ある賞を受賞することができました。
簡単ではありますが、要約して紹介したいと思います。
妊孕性温存の有効性についての検討
当院にはがん治療前に妊孕性温存を希望してくる患者さん(A)とがん治療後に挙児を希望してくる患者さん(B)がいらっしゃいます。
妊孕性温存の有効性を検討するために、このA群91例とB群104例の患者さんのデータを比較検討しました。
原疾患別の内訳では、赤文字の箇所にA/B群間に有意差を認めました。
A群
乳がん:64.8%
血液疾患:12.8%
子宮体がん:5.5%
甲状腺がん:2.2%
子宮頸がん:1.1%
その他:13.2%
B群
乳がん:34.2%
血液疾患:16.5%
子宮体がん:2.6%
甲状腺がん:15.4%
子宮頸がん:10.3%
その他:24.8%
となりました。
初診年齢・採卵個数・AMH値の比較
この表では3つの点が見て取れます。
1つは、A群において、初診時とがん治療後のAMH値を比較すると、大きく低下していることで、
これは化学療法等の影響がこれだけ大きなものであること、治療期間の加齢による影響があるものと考えられます。
特に卵巣毒性の強い治療を行うことの多い、乳がん患者さんにおいてこの傾向は顕著に見て取れました。
もう一つは、A群とB群を比較した際に、採卵個数がB群で有意に低くなることです。
最後の1つは年齢の差です。
乳がんで例えると、多くみられるホルモン受容体陽性の乳がんというものがあります。
このがんの場合にはホルモン治療というものが行われますが、卵巣毒性はありません。
しかし、治療期間が5-10年と長く、生殖適齢期の女性にとってはこの期間は極めて長いと言えます。
乳がん患者のAMH値・採卵個数の比較
上述したように乳がん治療ではシクロフォスファミドなどの薬剤を用いることが多く、
卵巣毒性の強い治療を行うこともあります。そのため、AMH値が図のように低下することも多くあります。
AMH値の影響は、採卵個数に反映されることが多くなります。
一度の採卵で得られる卵子の数、受精卵の数が減ってしまうことによって、
何度も採卵をしなければならなくなったりすることにもなりますし、
年齢を重ねれば、一般的には妊娠率が低下し、流産率が上昇するため、患者さんへの身体的・精神的・経済的な負担へつながる可能性があります。
他のがんでの比較では、各群間に有意差は認められませんでした。
妊娠率の比較
妊娠率では有意差は認められませんでしたが、
各群間を見ると、A群の妊娠率は80%と極めて高い結果となりました。
このように、
①A群(治療前)において原疾患の治療を行うことでAMH値が有意に低下した
②B群(治療後)で採卵数が有意に減少した
③A群(治療前)において妊娠率が有意に高かった
という点が確認され、特に①②については統計的な有意差も確認されています。
原因として、原疾患治療による卵巣機能の低下に加え、加齢による妊孕能の低下が示唆されました。
がん治療前の妊孕性温存は極めて重要であり、
治療前の妊孕性温存により治療後のがん患者さんのQOLが向上すると考えられます。