昨日は前半をお届けしました。
本日は後半についてご紹介したいと思います。
第二部:HBOC診療と生殖医療
日本がん・生殖医療学会の鈴木直理事長が座長を務められ、
HBOC診療と生殖医療についての講演が3つなされました。
ここで取り上げられているテーマとしては、
1、HBOC患者への妊孕性温存の現状と課題について
2、HBOCの進歩に伴う生殖補助医療の変化について
であるように感じられます。
HBOCにはBRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子かのいずれかに変異がある場合がありますが、
BRCA1に変異がある場合、TripleNegativeという進行度が高く、比較的予後が良くない種類のがんである可能性が
6割を超えます。またTriple Negative乳がんは再発率が高いことでも知られています。
一方で、Triple Negative乳がんは術前化学療法の対象となることも多いため、妊孕性温存の対象に真っ先に考えられます。
妊孕性温存の大原則は「がん治療優先」です。
遺伝的な部分の検査を徹底できずに、妊孕性温存だけをすることもできませんし、
HBOC患者さんの場合には、通常の患者さんに比べ、卵巣がんなどの発症率も高いことから、
例えば、卵巣凍結し、治癒後に融解移植して妊娠トライが終了した場合には、
この卵巣組織を再度身体から取り出すことが国際妊孕性温存学会(ISFP) から推奨されています。
また、HBOC患者さんへの治療として予防的卵管卵巣切除術(RRSO)というものがあり、
これを行うことで発症率、再発率は大幅に低下することが知られています。
(昨年のHBOCコンソーシアムではその議論が活発でした)
参照
挙児希望がある場合には適応できなかったり、更年期症状などの副作用があることも報告されています。
がんの起源に卵管が深くかかわっている可能性が示唆されており、予防的に卵管を切除し、
妊娠へのトライなどの期間が終了したら卵巣を切除する、予防的卵管切除・待機的卵巣切除というものも行われているとのことでした。
また、海外では着床前診断が最も行われているのはこのHBOC患者さん向けのBRCA変異検査であることも報告されていました。
日本ではまだ許可されていませんが、今後の動向に注目です。
参照
このほか、シンポジウム3ではPARP阻害薬の実際ということで、
卵巣がん患者さんの予後が劇的に良くなっていく可能性が示唆されたり、
乳がん患者においても、BRCA1/2遺伝子異常がある方に対してのオラパリブの使用で、
無増悪生存期間が有意に長くなるという結果なども紹介されていました。
一般的にはがんゲノム医療と呼ばれるものが、すさまじいスピードで進化していることを
肌で感じた一日でした。
一方でゲノム情報は様々な情報をもたらします。
それは必ずしも本人が知りたいことばかりではありません。
これらの新しい分野であっても、患者中心の医療を私たちが行う上では、
・医療者が遺伝に関するしっかりとした知識を持ち
・患者さんのケアを心理士、看護師などの他職種連携で行う
ことで患者さんと一緒に遺伝子情報を受け止めながら治療に当たっていく必要があるように思われました。
外部参照