日本でもいよいよ妊孕性温存が拡大期を迎えつつあり、
それに伴い卵巣組織凍結も増加している傾向が顕著に見て取れます。
当院でも昨年に比べて、3-4倍の患者さんが妊孕性温存で当院に来られました。
妊孕性温存は、女性の場合では、
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受精卵凍結
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卵子凍結
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卵巣組織凍結
のいずれかが考えられます。
保存できる妊孕能の観点では、
卵巣組織凍結が最も高く、次いで卵子凍結・受精卵凍結ということになりますが
メリット・デメリットも勘案した際には、
B:受精卵凍結、
C1:卵子凍結、
C:1卵巣凍結
というのが日本癌治療学会の推奨グレードです。
多くの場合、妊孕性温存を行う場合には、時間が限られているということが挙げられます。
血液疾患等の場合には、ピンポイントでしか時間がない場合もありますし、
乳がんの場合などでも、長くて4-8週間です。
その中で、患者さんご本人が納得しうる妊孕性温存を行う必要があります。
今回ご紹介するFertility and Sterilityの記事では、
卵巣組織凍結とIVM(未成熟卵子の成熟対外培養)を妊孕性温存の方法して推奨しています。
妊孕性温存目的のIVM
今回紹介するのは以下の記事です。
Optimizing the opportunity for female fertility preservation in a limited time-frame for patients with cancer using in vitro maturation and ovarian tissue cryopreservation
Roger J. Hart et al.,
ここでは、妊孕性温存におけるIVMの重要性を示唆しています。
IVMについては以下でも紹介していますので、ぜひ確認してみてください。
IVMの場合、卵巣表面にある未熟な卵子を体外に取り出して、体外環境の中で培養して発育させていこうというものです。
そこから考えられるのは、卵巣刺激が必要ではないこと、卵巣凍結と同時に行うことができる点も紹介しています。
ここの筆者らの実施した症例の結果としては、卵巣組織凍結と同時にIVM実施した患者の例では、12個の卵子凍結が実現されたとしています。
当院においても、搬送方法によっては、卵巣組織を摘出したのちに、一定の温度条件下にて搬送し、
卵巣凍結実施前にIVMを実施している症例が多くあります。
その中で多くの症例で卵子凍結も実現しえたという結果も得られていますし、
PCOS気味の患者さんにとってはより有効性が高いことも示唆されています。
妊孕性温存後、がん治療を終えた後、実際に妊娠に向かって治療していく段階としては、
現時点での安全性・確実性は受精卵凍結・卵子凍結の方が卵巣凍結よりも優れているといえます。
そうした意味では、1回の手術の中で、卵巣組織凍結とIVMによる卵子凍結が実現できることは患者さんのメリットがとても大きいと考えています。
妊孕性温存では、治療スケジュールはともかく、患者さんが意思決定するまでの時間は非常に限られています。
その点で、こうしたすべての選択肢を提示できるようにすることで、患者さんに本当にBESTな可能性を残せる方法を実現できればと思います
今後ますます増えていく、こうした新しい治療スキームを積極的に紹介していければと思います。