不妊治療を行う上で、費用の比較はとても大切な問題です。
特に日本の場合、一般不妊治療は保険で賄われ、人工授精から先の治療については、自由診療となります。
人工授精から体外受精の価格差はおおむね30-40万円とかなり大きなものとなります。
一方で、不妊症である場合、タイミングによる妊娠率は通常の20%程度ですが、
2%程度まで低下します。人工授精でも5-10%前後、体外受精では30-40%と大きく変化します。
ゴールを妊娠とした場合、必ずしも妊娠率だけでは判断できませんし、コストだけで判断できません。
そうした場合に有効なのが、費用対効果という考え方です。
これまでは、以下のようなものも紹介しています。
今回はタイミング、人工授精、クロミフェン、ゴナドトロピンについての比較をしている研究を紹介したいと思います。
タイミング、人工授精、クロミフェン、ゴナドトロピンと費用対効果の検討
今回紹介するのは、以下の論文です。
Gonadotrophins versus clomiphene citrate with or without IUI in women with normogonadotropic anovulation and clomiphene failure: a cost-effectiveness analysis
E M Bordewijk et al.,
Human Reproduction, dey359, https://doi.org/10.1093/humrep/dey359
従来、ゴナドトロピンはクロミフェンよりも有効ではあるが、高価でもあることで知られています。
タイミングと人工授精も同様に、人工授精の方がより有効ではありますが、当然高価になります。
この研究では、2008年12月から2015年12月の間の間666名の女性を対象に行われ、
A)ゴナドトロピン投与+タイミング
B)ゴナドトロピン投与+人工授精
C)クロミフェン投与+タイミング
D)クロミフェン投与+人工授精
と分けて比較検討を行いました。
従来は、クロミフェンが排卵誘発の第一選択と考えられてきました。
6周期実施してもうまくいかない場合、クロミフェンに対しての反応が良くないということで、
ゴナドトロピンに切り替わり、タイミングから人工授精へとステップアップしていきます。
最近では、レトロゾールが有効であるということも言われますが、保険外適用であるため、薬自体がとても高価です。
この研究でも選択肢には入っていないようです。
妊娠率はゴナドトロピン投与後52%、CC投与後41%、RR 1.24(95%CI:1.05-1.46)となり、
絶対値としての差は、10.2%となりました。
ゴナドトロピンを用いた追加出生1人当たりの増加コストは15,258ユーロとなりました。
人工授精後の妊娠率は49%、タイミングは43%となり、絶対値としての差は6.1%となりました。
ICERは、IUIによる追加出生1人当たり24,361ユーロでした。
多胎妊娠率は両群間で差を認めませんでした。
コストは治療行為単体で、計算されているわけではなく、
最終的に妊娠に至るまでに行われた回数、諸検査、出産にかかる費用も含めて計算されています。
このように治療の選択によって、様々な経済的な効果が変わってくるほか、
ここでは語られていませんが、時間という大切な資産も消費していきます。
様々な角度からの妊娠するまでのプランを考え、患者さん自身が納得のいく治療の提供ができるように
スタッフ一同努めていきたいと思います。