先日、日本産科婦人科学会が開催した
着床前診断 -PGT-A特別臨床研究の概要と今後の展望-
では様々な議論が交わされました。
生殖医療の関係者はもちろん、小児科の先生、社会学の先生、
様々な立場の患者さんが参加され、白熱した会になったと言います。
日本には日本の倫理観があり、技術だけがあればいいというものではありません。
倫理的な観点から、その治療を行うべきかを考えていく倫理審査委員会という仕組みや、
治療を受ける前に、プラスの面ばかりではなく、マイナスの面も視野にいれた情報提供を行うことが必要となります。
今回は、先行する海外でのPGT-Aの現在についての論文を紹介したいと思います。
PGT-Aの必要性とカウンセリングについて
今回紹介するのは以下の論文です。
To test or not to test? A framework for counselling patients on preimplantation genetic testing for aneuploidy (PGT-A)
Lauren A Murphy et al.,
Human Reproduction, dey346,
これまで、以下のような内容も紹介しています。
今回の研究は、2014年12月から2016年9月までの最初のIVFサイクル(N = 300)のPGT-A とコントロール群300人、
合計600人の患者を対象としたコホート研究です。
これによると、PGT-Aを行った群では、採卵あたりの生児獲得率では有意な差を見出さなかったが、
移植当たりの生児獲得率では有意に高い結果となりました。
特に38歳以上の患者群となると、移植当たりの妊娠率において、
49.4% vs. 69.1%(PGT-A群)
という結果となりました。
また従来通りの結果ではありますが、こうしたことから、妊娠成立までに必要とされる胚移植回数を短くすることが可能と考えられています。
一方で、38歳未満の患者さんを対象とした場合、PGT-Aの有効性はさほど大きなものではなくなってきます。
このような結果をもとに、患者さんに対して、適切な情報の提供と整理(カウンセリング)を行い、
患者さん自身の意思で納得のいく選択ができるようにすべきであると述べられています。
この研究における重要な点はいくつもあると思いますが、あえて絞って言えば、
PGT-Aといっても、万能ではなく、効果のある方、ない方がいるということ
検査をするということは見なくてもよいものまで見るという可能性を秘めていること
医療者も患者さんもそうした複雑であいまいな情報を一緒に受け止め、考えていく必要があること
ではないかと思います。
日本はPGT-Aの導入において、確かに遅れたかもしれませんが、
このように起こるべくして起こっている倫理的課題にどのように対応するのかを考えながら、
参入していけるのは後発参入者ならではの利点ともいえるのだと思います。