妊孕性温存の患者さんのデータなどを見ていると、
ふと気になることがあります。
ずばり
がんになることで卵巣予備能や卵巣反応への影響はないのか?
ということです。
今回はそうした研究を紹介したいと思います。
女性はがんに罹患することで卵巣の反応に影響があるのか?
以下の論文を紹介します。
The impact of malignancy on response to ovarian stimulation for fertility preservation: a meta-analysis
Volkan Turan et al.,
Fertility and Sterility December 2018Volume 110, Issue 7, Pages 1347–1355
この研究では、合計で10の研究を対象として、メタ解析が行われ、
がん群(722サイクル)および健全な女性(1,835サイクル)が含まれました。
これまでの研究のいくつかでは、がん患者は一般女性と比べて、卵巣刺激に対しての反応が良くないというような見方をされてきましたが、
当然、各研究では対象となる患者数が少ないため、一つの研究では結論付けることはできませんでした。
その後に出てきた研究では、がん患者であっても、同年代の女性と比べて、がん治療前であれば卵巣刺激による反応は変わらないというものも出てきました。
そうした中で、今回のメタ解析が行われました。
一つの研究ではなく、異なる多くの研究のデータを統合、統計処理をかけることで、
よりエビデンスレベルの高いデータを得ることができるのがメタ解析の特徴です。
この解析では、
採卵を行って得られた採卵数
妊娠率、流産率
などの比較を行いました。
総合的な結論としては、がんに罹患していることで、卵巣反応が悪くなるという事実はないことを結論としています。
一部、乳がんに関しては、エストロゲンレセプターが陽性である場合に卵巣刺激法が異なることから、
卵巣刺激法が異なることもあり、得られる卵子の数に有意差があるとしています。
また、その後の妊娠率や児の先天異常などについては、
今後さらなる研究が求められるとしています。
当院だけの症例数ではもちろん何かを結論付けることはできませんが、
妊孕性温存の対象となった方でも、化学療法前であれば、年齢に応じた卵子が得られる印象はあります。
血液腫瘍などで、化学療法を実施している場合はその分AMHが低くなり、得られる卵子の数は低下することもあります。
こうした最新情報は常にUPDATEしたいと思います。