当院には多くの妊孕性温存の患者さんがいらっしゃいます。
とりわけ多くいらっしゃるのが、女性の若年性乳がんの患者さんです。
若年性乳がんと妊娠?と思われるかもしれませんが、
世界的にみても乳がんの治療過程において、方法によっては妊娠する力が大きく低下し、
がん克服後のQOLが低下してしまうということが問題視されています。
そうした方々から頂く質問のひとつにOncotypeDXについて、というものがあるので、
紹介しておきたいと思います。
OncotypeDXとは
初めに断っておくと、当院はOncotypeDXの専門家でもなく、患者さんに何かをアドバイスできるわけではありません。
ご自身が利用するかどうかは、がん治療医の先生にお尋ねください。
Oncotype(オンコタイプ)DXは、アメリカで開発された検査です。
対象となるのは、乳がんの中でも浸潤性の乳がんで、リンパ節転移がなく、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の方が対象です。
海外では4000人以上の方を対象とした検査を行い、米国臨床腫瘍学会(ASCO)や欧州臨床腫瘍学会(ESMO)でも承認され、
乳がんを正確に見極め、後の治療法を正確に決定するために重要な検査として位置づけられています。
日本ではまだ保険適用が承認されていません。
乳がんの治療の多くは、まずは該当するがんを摘出し、その後がんの種類によって、
ホルモン療法や化学療法を行うことで、がんの再発可能性を低下させていきます。
がん治療・妊孕性温存において、がん治療が最優先という原則で行われますが、
化学療法が本当に必要かどうか、という点の見極めはきわめて難しいと考えられています。
OncotypeDXでは、すでに手術で取り出している乳がん組織を用いて、
21の乳がんに関する遺伝子発現を解析し、より個別具体的にがんの再発リスクを測定していきます。
検査結果は0-100の数値で表され、この数値をもとに低リスク、中リスク、高リスクと分類されていきます。
低リスクの場合には、ホルモン療法に化学療法を加えても、治療効果の差がなく、
高リスクの場合には、ホルモン療法に化学療法を加えることで効果的な治療になることが期待されます。
化学療法は強い治療ですから、副作用も強くなります。
これは妊孕性とも密接なかかわりがあります。
不要な化学療法の実施を避け、本当に必要なケースでは漏れなく実施することで、
個別最適化された乳がん治療が実現できる、とされています。
治療自体は非常に有効なものというのが共通見解のようですが、
保険適用外であるため費用が高額であることは患者さんの負担という意味では厳しいかもしれません。
また、妊孕性温存の患者さんで思いのほか多いのは、ホルモン療法だから温存しなくて大丈夫、という方もいらっしゃいます。
必ずしも温存しないとならないわけではありませんが、不妊における最大の原因は女性の加齢にあると言われていて、
生殖年齢を迎えられた方にとっての5年、10年というのは非常に大きなものですし、
男性の加齢の影響も少なからずあり、それも掛け合わさってくることを考えると、
ご自身の年齢から5年10年経ったときのことを正しい情報からイメージして、
考えていただければと思います。