体外受精を行う際のステップとして、
卵巣刺激→採卵→胚培養→胚移植
があります。
患者さんへの身体的な負担が特に大きいと考えられるのは、
採卵
です。
1983年に日本で初めて体外受精が成功した際の採卵手術は、
事前に入院していただき、全身麻酔にて腹腔鏡下で行われていました。
患者さんへの身体的な負担も大変なものでした。
それから35年経った現在では、外来にて多くの方は局所麻酔で、経膣的に採卵を行うことができるようになりました。
当時に比べれば、採卵時の患者さんの負担は大きく軽減されたと考えられるでしょう。
また、別の記事で紹介していますが、患者さんのゴールを妊娠として考えたときに、
卵巣刺激をして、1回の採卵で多くの卵子を得るようにするのがゴールへの近道です。
当時から見れば格段に負担は軽減したとはいえ、
痛みや負担がなくなったわけではありません。
当然穿刺する回数も増えるので、患者さんが感じる痛みも増していきます。
そうした中で、痛みに直結しているのが「採卵針」です。
これまでこの採卵針を補足するための試みが多くなされてきています。
細い採卵針と標準的な採卵針での比較
今回紹介するのは以下の論文です。
A randomized controlled study comparing pain experience between a newly designed needle with a thin tip and a standard needle for oocyte aspiration
Wikland M et al.,
Hum Reprod. 2011 Jun;26(6):1377-83
この研究では細い採卵針での採卵と標準的な採卵針での採卵成績や患者さんが感じる痛みなどの疼痛評価をしています。
2009年6月から12月までの4つの医療機関で合計257例のランダム化比較試験が行われました。
採卵は局所麻酔下で行われ、細い採卵芯は直径0.9mm、標準的な採卵針は1.4mmでした。
主要な評価指標として、採卵直後の患者さんの痛みを視覚スケールでとり、
採卵成績などを副次的な評価指標として設定しています。
※日本緩和治療学会HPより参照
これによると患者さんの痛みの訴えは、標準的な採卵針で行われた方が優位に強かったとしています。
また、採卵時の膣壁や卵巣からの出血も少なくなったことが確認されています。
同時に、採卵の成績についても、標準的な採卵針と細い採卵針とで差が出なかったとしており、
卵回収率に影響を及ぼすことなく、全体的な痛みおよび膣出血を有意に減少させた、と結論付けています。
当院でも同様の採卵針を標準的に使用しています。
患者さんのゴールは妊娠・出産です。
そこを見失わずに、少しでも負担を軽減し、一日でも早く、一人でも多くの患者さんがご卒業していただけるように
これからも様々な取り組みをしていきたいと思います。