これまで調節刺激と自然周期などについていくつも紹介してきました。
妊娠率については、何を分子として、何を分母とするのか、という正しい理解が必要です。
世界的にもこうした比較を行うケースが増えており、今回はアメリカで行われた大規模な後方視的研究について紹介したいと思います。
卵巣刺激の種類別の出産率の比較
今回紹介する論文は以下のものです。
Vitaly A Kushnir et al.,
BMJ Open. 2018 Nov 8;8(11):e023124
この論文ではアメリカにおいて2014年、2015年に実施した
205,705の高刺激周期、4,397の低刺激周期、2,785の自然周期、514のIVM周期での採卵について解析を行いました。
参照:IVMについて
年齢別の傾向を見ていくと、若年であるほど高刺激周期の比率が高くなり、年齢を重ねるごとに低刺激、自然周期の比率が高まります。
具体的には
高刺激周期:35歳未満の時は98.5%の方に実施、42歳以上では87.1%の方に実施
低刺激周期:35歳未満の時は0.8%の方に実施、42歳以上では6.5%の方に実施
自然周期:35歳未満の時は0.5%、42歳以上では5.8%の方に実施
となっています。
IVMについては、もともとの割合が低いこともありますが、ほぼ一定の推移でした。
採卵がキャンセルになる比率については
高刺激周期:35歳未満の時は5.5%、42歳以上では16.4%
低刺激周期:35歳未満の時は10.0%、42歳以上では15.7%
自然周期:35歳未満の時は21.1%、42歳以上では24.1%
となっています。
刺激を行い、採卵をしたものの、移植できる胚が得られなかった比率は
高刺激周期:35歳未満の時は4.0%、42歳以上では24.8%
低刺激周期:35歳未満の時は18.2%、42歳以上では39.8%
自然周期:35歳未満の時は12.1%、42歳以上では31.4%
となっています。
出産率については
高刺激周期:35歳未満の時は42.4%、42歳以上では3.9%
低刺激周期:35歳未満の時は26.1%、42歳以上では0.9%
自然周期:35歳未満の時は15.7%、42歳以上では0.6%
という比較となり、年齢にもよりますが高刺激周期の方が、他の方法に比べて2倍から6倍ほどの水準となりました。
なお、流産率は刺激方法による大きな差は見られませんでした。
要約すると採卵がキャンセルになる可能性が低く、採卵したものの移植できる胚がないということも少なく、
流産する確率は変わりなく、出産率が高い、という結果です。
これはあくまでもアメリカでの研究かつ、後方視的な研究なので、ここで優劣がつくということではありませんが、
少なからず刺激を行うことが何か負の影響を与えていると考える根拠はなさそうですね。
実際にはおひとりおひとりの身体の状態やご希望に応じて、医師と相談の上決定していくことになります。
こうした研究が進んでいくことで、患者さんが本当に知りたい妊娠率(治療当たりの妊娠率)が広く認知されていくといいですね。