妊孕性温存ではいま様々な試みがされています。
特に世界的にも増加傾向にある乳がんについても同様です。
乳がんなのに、なぜ卵巣機能がなくなるのか?
と思われる患者さまが多いのですが、メカニズムとしては
アルキル化剤をはじめとしたお薬などで乳がんの治療を試みる場合、
その薬の持つ毒性が、身体をめぐり、卵巣にも影響を与えます。
卵巣には、卵子の元になる原始卵胞などが存在しますが、
これらがその影響(ダメージ)を受けて傷んでしまいます。
それによって、卵巣機能が著しく低下したり、時にゼロになってしまうことがあります。
卵子は新たに作られる細胞ではないので、失ってしまうと二度と手に入れることができません。
また、妊孕性温存にあたっては、何よりもまずがん治療が優先されるため、
お薬を変えるというのは容易ではありません。
そのため、薬剤を使用する前に、卵子や受精卵、時には卵巣を体の外に出し、凍結しておきます。
海外ではさらに進んだ研究も始まっています。
一つはニュースでもよく目にするがんゲノム編集といわれる遺伝子関連のものです。
また、もう一つの考えとして、薬剤の使用の仕方というのも注目されています。
アメリカでは、化学療法関連卵巣不全の予防におけるゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト(GnRHa)の有効性が謳われています。
Preventing ovarian failure associated with chemotherapy.
Med J Aust. 2018 Nov 5;209(9):412-416.
Cui W et al.,
ここでは、
GnRHaゴセレリンは、毎月3.6mg皮下注射することで、
悪性腫瘍または自己免疫疾患のアルキル化療法を受けている閉経前女性の卵巣不全リスクを低減する。
ゴセレリンの初回投与は、理想的には、アルキル化治療の開始の少なくとも1週間前に投与し、化学療法中は4週間継続する。
卵巣機能を維持する努力の中で、アルキル化化学療法(難治性の癌を除く)を、妊娠可能性の状態にかかわらず開始するため、
すべての閉経前女性のために、同時のゴセレリン使用を検討すべきである。
としています。
そもそも卵巣毒性を無くすことができれば、卵巣を摘出する必要、がん治療後に移植する必要がなくなり、患者さんの負担はとても低くなります。
ただ、現時点ではより確実にがん治療をし、妊孕性温存もするとなると、卵巣凍結自体の重要性はゆるぎないと思われますし
ホルモン療法が長期間にわたって行われることが多いため、やはり妊孕性温存自体は行う必要があると思います。
この領域は加速度的に変化・進歩しているため、常にUPDATEしていきたいと思います。