仙台院の五十嵐秀樹院長の寄稿です。
当院では様々なサプリメントを提供し、患者さんにとってより良い治療が行われるよう
日々研鑽を重ねています。
今回は、その中でも昨今非常に注目されているレスベラトロールについての最新情報を紹介します。
レスベラトロールは加齢マウスと高齢女性の卵子体外成熟を改善する
これまでのレスベラトロールに関する紹介は、以下から確認いただけます。
今回は以下の論文を紹介します。(仙台院 五十嵐秀樹院長の寄稿です)
Resveratrol improves in vitro maturation of oocytes in aged mice and humans.
Liu MJ et al., Fertility and Sterility 2018; 109: 900-907.
米国コロラド州デンバーで開催されたアメリカ生殖医学会(10月6日〜10日)に参加してきました。
当院で行っている体外受精時のメラトニンとレスベラトロール投与の効果について発表を行いました
学会では卵子の老化とミトコンドリア機能に関するセッションも多く、卵子老化対策は世界共通の課題である事をあらためて認識しました。
さて、レスベラトロールですが赤ワインなどに含まれるポリフェノールの一種で、
酸化ストレスから卵子を保護する作用(抗酸化作用)があります。
それに加えて、若返り遺伝子であるサーチュイン1を活性化させる作用があます。
これらの作用により卵子の質を改善するのではと考えられています。
サーチュイン1の活性化は他の抗酸化剤には無い機能です。
しかし、まだレスベラトロールの機能は十分に解明されておらず、
抗酸化作用と若返り遺伝子活性化以外の機能を持ち合わせている可能性があります。
そこで今回の論文紹介です。
加齢マウスと高齢女性の未熟卵子をレスベラトロールを含む培養液で成熟させ、成熟卵の質を評価した論文です。
【対象と方法】
マウス:48〜52週齢(ヒトではおよそ50歳に相当)。
ヒト:38〜45歳。
それぞれからGV期卵子(成熟卵子の2ステージ手前の卵子)を採取し、
レスベラトロール0.1、1.0、10 µMを含む(添加)培養液で体外成熟培養を行う。
【結果】
まず、加齢マウスでの結果です。
- 0 µMレスベラトロール添加培養液で卵子成熟率、受精率、受精後の胚盤胞到達率が有意に改善した。
- 0 µMレスベラトロール添加培養液で成熟した卵子は染色体と紡錘糸の配列異常が有意に減少した。また、ミトコンドリア機能が有意に改善した。
- 0 µMレスベラトロール添加培養液で成熟した加齢マウス卵子でサーチュイン1遺伝子、抗酸化遺伝子(CAT、GPx4、SOD1)が有意に増加した。
以上の様に加齢マウスではレスベラトロールは卵子の体外培養後の成熟率、培養成績を有意に改善しました。
それでは高齢女性ではどうでしょう?
0 µmレスベラトロール添加培養液で成熟した卵子は染色体、紡錘糸の配列異常が有意に減少した。また、ミトコンドリアの機能が改善した。
つまり、同様の結果が得られました。
レスベラトロールの卵子成熟率と受精率、その後の胚発生改善は、
サーチュイン1遺伝子活性化による抗酸化遺伝子の増加により卵子の質(ミトコンドリア機能)が
改善されたことによると考えられます。
また、ミトコンドリア機能はATP(細胞のエネルギー源)産生能に直結しますが、
紡錘糸、染色体の配列異常が改善されたことは、レスベラトロールによりATP産生が増加し、
これが紡錘糸、染色体配列の安定性をもたらした可能性があります(本論文ではATP産生能の改善までは評価していませんが)。
当院ではレスベラトロールを培養液に添加せずに、内服して頂いております。
実際の卵胞液中の濃度は測定していませんが、今回の論文からは過剰投与では効果が無いことも示されています(1 µMでは効果なし)。
抗酸化剤をいくつか組み合わせることで相乗効果も期待されます。
外来では適切な抗酸化剤(サプリメント)の服用を相談いたします。