最新の論文について紹介いたします。
今回は、不妊治療の中でも医学的適応といわれるもので、
一般的にはがん患者さまや血液疾患の患者さまに生殖補助医療を適応し,
そうした方々の妊孕性(にんようせい:妊娠する力のこと)を温存しようという取り組みです。
当院では、実は2000年よりこうした難しいご病気の方々への生殖補助医療の適応に対して、研究・臨床に取り組んでいます。
参照:外部サイト 妊孕性温存とは
2004年の初めての出産報告から12年が経ち…
2004年に、ベルギーのDonnez博士が世界で初めての卵巣凍結後、移植による出産報告をしてから12年が経ち、
2016年に86名の出産、9名の妊娠継続が報告され ました。
論文の中で40名の赤ちゃんについて報告されていますが、
出生は平均 妊娠39週、3168gで生まれて、皆さん健康だとのことです。
卵巣凍結によるメリットは「自然妊娠」
卵巣凍結・移植を行うことのメリットとして、挙げられているのが「自然妊娠が可能になる」点です。
実際に本論文においても、移植後、半数が自然妊娠でした。
卵子凍結・受精卵凍結と比べると、根本的な妊孕能を保存できる点に注目が集まっているのはこのためです。
凍結方法の多くは緩慢凍結法
卵巣を摘出した後、凍結させるわけですが、この凍結の方法もまた特徴的です。
結果から言えば、95名の内、93名は緩慢凍結法によるものでした。
日本ではガラス化凍結法というものが選択されることが多いのですが、
こうした結果からも世界の趨勢は緩慢凍結法に偏っていることが伺えます。
その理由の一つとして、ガラス化凍結法は受精卵や卵子凍結に使用される一方で、卵巣のように大きな組織を対象に行った場合、
使用する凍結保護剤の毒性が卵巣組織に残ってしまうのではないかという懸念があることが示唆されています。
実際に、私達の最近の研究ではガラス化法で凍結して、融解して移植直前の卵巣組織切片の凍結保護剤の濃度を調べたところ、
完全にwash outされず、残留しており、臨床に用いるべきではないと考えています。
私たちの取り組み「HOPE」
卵巣凍結を日本で実施しようと考える際に、一つの障壁になるのが、
凍結実施施設が近くにないことが挙げられます。
同様の問題点をクリアし、妊孕性温存を推進しているのがデンマークやドイツです。
彼らは、医療機関とネットワークを組み、卵巣組織を搬送するシステムを構築することによって、
国内に少数の卵巣凍結センターであっても、患者さんにとって地域格差なく、卵巣凍結という治療が選ばれるようにしているのです。
当院では、このようなモデルケースに倣い、独自の搬送システムを導入し、
30時間以内であれば日本中どこからでも、東京の卵巣組織保存センター(HOPE)に4℃で搬送し、
HOPEで凍結保存を行うことができますし、原疾患が治って、移植して妊娠を希望された場合には、
それを-196℃で搬送、地元で移植することが可能になります。
The woman stays-the tissue moves.
まさに患者中心の医療と考えます。
もちろん卵子や受精卵の凍結も積極的に実施しています。
ご相談・ご質問はHOPEまでお願いします。