小児がんの患者さんの妊孕性温存については、以前に以下で紹介しました。
今回は、以下で小児がん患者さんを長期間フォローアップして得られた
「長期間で見たときの影響」
についての研究を紹介します。
小児がん患者の中長期的な妊孕性
小児がんの多くは血液疾患などであり、緊急的に治療を要するものが多くあります。
現在では、治療技術が発達し、生存率も高まっているものの、妊孕性との関係では非常にシビアな治療です。
ただ、短期的にはもちろん妊孕性が急激に低下するものの、廃絶しないケースもありますが、
まだまだ新しい分野であるために、長期間にわたるフォローアップ研究はほとんどありませんでした。
今回は、妊孕性温存とは違いますが、長期で見た際の小児がん患者さんの妊孕性がどうなるかについて解析したものを紹介します。
Long-term effects of childhood cancer treatment on hormonal and ultrasound markers of ovarian reserve
M H van den Berg et al.,
Human Reproduction, Volume 33, Issue 8, 1 August 2018, Pages 1474–1488,
この研究はオランダで行われました。
1963年から2002年の間に、オランダ小児腫瘍科グループにかかられている方をもとに、
DCOG-LATERと呼ばれるデータベースが作成されました。
そのデータベースを用いて行われたフォローアップ調査で、
対象は18歳未満の悪性腫瘍または中枢神経系腫瘍のために治療され、診断後少なくとも5年間生存し、少なくとも入院時に18歳であった女性2247名が対象となりました。
ここから排除基準を満たす方や、フォローアップができなかった方などを除くと、対象は1749名となりました。
最終的にはここから1106名が抽出されました。
比較対象のために、一般人および対象となった1106名の方々の姉妹が抽出されました。
この研究では妊孕性を測る尺度として、
AMHとAFC、またFSHレベルを用いました。
AMHは超音波では見えないレベルの卵母細胞から出ているホルモンで、
それを測ることで、どれだけの卵胞が残されているかを測ります。
この値が低ければ、それだけ妊孕性が低下していると考えられます。
また、AFCは月経3日目に経膣超音波で見える、左右の卵巣内にある小さな卵胞2-8mmの数の合計です。
これが少ないということもまた、妊孕性の低下を表します。
FSHは閉経後に高くなっていくホルモンですから、これについては高い値が出ることで閉経に近づいている。
つまり妊孕性が低下していると考えられます。
今回の結果を要約すると、
AMHが低い
小児がん患者:74名(13.4%)
対照群:13名(3.4%)
AFCが少ない
小児がん患者:32名(7.0%)
対照群:8名(2.4%)
FSHが高い
小児がん患者:67名(12.1%)
対照群:39名(10.1%)
※40歳未満年齢に絞ってみると
小児がん患者:45名(8.9%)
対照群:10名(3.2%)
と差が大きくなる
ということがわかっており、小児がん治療を受けている患者さんの方が妊孕性の低下が顕著にみられることが判っています。
次回、小児がんの詳細な治療方法による影響を紹介したいと思いますが、
小児がんは治療の緊急性が高いものが多く、そのスピードこそが命に直結することを理解しつつ
QOL向上の観点ではより早いタイミングで生殖医療との連携を試みることで、
一人でも多くの方の未来が変わるかもしれないということを心にとめておきたいと思います。