AIDとは、提供精子を用いた人工授精を指します。
非配偶者間での生殖医療となるため、通常の生殖医療以上に
生まれてくる子どもへのケアが欠かせません。
それは、生まれてくる子どもが置かれる立場がこれまで非常に不安定であったからです。
これまで、NHKなどでの教育番組でも様々に取り上げられてきましたが、
ある日突然、自身が父親ではない方の精子を元に生まれたことを知ってしまった方は、
自分自身の存在のよりどころを失ってしまう可能性さえあるということです。
こうした出自に関する情報は、その後の子どもの人生にとっても非常に重要であることから、
出自を知る権利の重要性が訴えられていきました。
今回、当院の生殖心理カウンセラーの菅谷が生殖心理学会詩において報告した内容がありますので、
ここで紹介したいと思います。
AIDを検討する夫婦にカウンセリングを実施する意義
AIDを実施するご夫婦は、
ご主人が男性不妊症(無精子症)であること
が前提条件となります。
そのうえで、ご夫婦が強く希望した場合に
初めて適応される治療ですが、
その際に
・生まれてくる子どもの出自を知る権利について考えること
・カップル間での十分な話し合いを行うこと
を目的としてカウンセリングは実施されます。
これは突き詰めれば、
生まれてくる子どもが安心して生活できるような環境を整えること
と言えます。
治療を行うことは、夫婦どちらかの問題ではありませんし、
夫婦だけの問題でもありません。
生まれてくる子どものことまで考え、治療に臨まなければならず、
そうした土台作りのためにカウンセリングは行われています。
今回紹介している内容は当院での実施ではなく、前勤務先での実施データですが、
カウンセリングを受けてよかったと答えた方が91.1%
AIDについての理解が深まったと答えた方が87%
AIDで生まれた子どもを育てるイメージができたと答えた方が82.6%
AIDに関する不安や疑問が軽くなったと答えた方が67.7%
子どもが健やかに育っていくために必要なヒントが得られたと答えた方が84.2%
という結果でした。
こうしたこと以外にもカウンセリングを受けたことに対して
肯定的な意見が多く寄せられ、そこには
共感してくれる人の存在や感情を表出できたことによって、自己肯定感が高まったことが挙げられ、
カップル間の意思疎通が図られたことで、良好な関係を再獲得することができたということや、
「子どもを主体に考える」という新たな視点の獲得によって、告知によって伝えたいことが明確になった
などが関係していると考えられます。
生殖医療の難しさは、決断をし治療をうける夫婦と生まれてくる当事者が別の人間であることです。
治療前に第三者の専門家からのカウンセリングを行うことで、
治療についての正しい理解を共有して、
カップル相互の健全なコミュニケーションをサポートして
生まれてくる子どもが健やかに育つことのできる土台作りを続けていければと思います。