がん治療の目覚ましい進歩によって、がん治療後の生存率は高まり、
それは結果として小児がんや若年性がんサバイバーの増加にもつながっています。
そのため、彼らのQOLの向上のためにも、実際のがんによる妊娠への影響はどれほどか、
ということについても関心が高まっています。
スコットランドの大規模研究による「がんが妊孕性に与える影響」
今回ご紹介するのは基本的に女性のがんについての情報です。
男性の精巣腫瘍に関する情報は以下で紹介していますので、参照ください。
スコットランドにおいて行われた大規模な後方視的研究を紹介します。
1981年から2012年の間、40歳未満でがんの診断がついた23,201名の患者を対象に、
その後の妊娠について調査をし、がんに罹患していない方々10,271名との差異を検証した研究です。
The impact of cancer on subsequent chance of pregnancy: a population-based analysis
Human Reproduction, Volume 33, Issue 7, 1 July 2018, Pages 1281–1290,
Richard A Anderson et al.,
この研究によれば、総括として、
がんにかかった方の妊孕性はそうでない方と比べて0.62倍に低下する
ということが示唆されていると報告をしています。
その中でも、減少が顕著であったのは、
子宮頸がん:0.34倍
乳がん:0.39倍
白血病:0.48倍
とされています。
ちなみに
ホジキンリンパ腫:0.67倍
非ホジキンリンパ腫:0.67倍
と報告されています。
その他にもいくつか指標がありますが、
その患者さんががんにかかった年が最近であればあるほど、
影響は小さくなってきています。
具体的には、
1981年から1988年にかかられていた方は、0.48倍であるのに対して、
2005年から2012年の間の方は、0.79倍であったとされています。
これには、治療技術の急速な進歩に加えて、罹患時の年齢なども多分に影響していると思われます。
また、放射線療法や化学療法を受けたかどうかも重要な指標であり、
放射線療法については
受けた方:0.43倍
受けていない方:0.80倍
化学療法については
受けた方:0.48倍
受けていない方:0.82倍
という差が出ています。
つまり、受けていない方の方が妊娠する力は残っていくということです。
妊孕性温存の原則はあくまでも原疾患治療の優先です。
そのため、こうしたデータがあるから、妊孕性温存をしましょうということだけではなく、
きちんとした情報を持ち、短い時間の中で、ご本人が納得できる意思決定を行うことが求められます。
知っていて失った妊孕性と、知らずに奪われた妊孕性ではその後のQOLには大きな差が生まれると思います。
その後の治療についても、今後さらに議論がされていくものと思いますが、
現時点では、未婚者であれば卵子凍結、卵巣組織凍結、既婚者であれば受精卵凍結というのがセオリーです。
これからも最新情報を紹介していきたいと思います。