基礎知識

顕微授精の有効性とPiezo-ICSI(ピエゾイクシー)について

顕微授精は、生殖補助医療にとって必要不可欠な技術の一つであることは間違いありません。

しかし、患者さんからのよくある質問の一つでもあるのですが、

「すべて顕微授精すればよいのではないですか?」

という質問に対しては、NOと答えてきました。

そうした背景と共に、改めて現在での顕微授精のあるべき適応について紹介したいと思います。

 

顕微授精の有効性

 


顕微授精については、以下から確認ください。

 

必ずしも明らかではないものの、顕微授精を行うことには一定のリスクがあると考えられています。

顕微授精はその手技の特性上、精子を注入するために特殊なピペットを用いて、

卵細胞質膜を吸引して穿破する必要があるため、卵子への影響が懸念されています。

男性因子がある場合には、卵子へのダメージよりもそもそも受精にたどり着けない場合が多くあるため、

顕微授精にとって有効な適応となりますし、受精障害がある場合なども顕微授精は有効ですが、

男性不妊でもなく、受精障害でもないのに、いたずらに顕微授精を増やすというのは上記のリスクもありますし、

費用的にも患者さんの負担が高くなりますので、賛成しかねる内容です。

少し古い内容ですが、生殖医療関連の雑誌で最も権威ある雑誌の一つであるニューイングランドジャーナルに

Trends in the Use of Intracytoplasmic Sperm Injection in the United States

というタイトルの論文が掲載されていました。

この論文で書かれていることを要約すると、

アメリカでは1995年から2004年の期間で見た際に、

ICSIのIVFサイクルの割合は、1995年の11.0%から2004年の57.5%まで約5倍に増加していました。

対照的に、男性因子不妊症の診断は、分析された期間(1999〜2004年)にわたって安定したままでした。

これらの知見は、男性因子条件に起因しない不妊症に対するICSIの使用が増加していることを示唆しているとしており、

過剰な顕微授精の適応については、警鐘を鳴らしてきた背景がありました。

 

2017年には以下の論文も報告されています。

Differences in utilization of Intracytoplasmic sperm injection (ICSI) within human services (HHS) regions and metropolitan megaregions in the U.S.

Pavel Zagadailov et al.,

Reprod Biol Endocrinol. 2017; 15: 45. doi: 10.1186/s12958-017-0263-4

この研究でも同様にICSIの利用率などを調べていますが、最大で78%程度にまで適応が広がっており、

その拡大の度合いと比べ、男性不妊患者の割合が増えていないこと及び出生率もそこまで高まっていないことから、

顕微授精の比率のみが突出した高くなっている現象が示唆されています。

 

また最新の研究でオーストラリアの研究では、

ICSIは非男性因子不妊における累積生存出生率を増加させない

というタイトルの論文が紹介されています。

ICSI does not increase the cumulativelive birth rate in non-male factor infertility

Human Reproduction, Volume 33, Issue 7, 1 July 2018, Pages 1322–1330

Z Li et al.,

この研究では、オーストラリアビクトリア州で2009年7月から2014年6月の間に

IVFまたはICSIのいずれかによって初めて採卵を行った14693人の女性のデータベースを後方視的に解析しました。

IVF(体外受精)を受けている女性4993人には7980周期の胚移植を行い、1,848人の赤ちゃんが誕生しました。

ICSIを受けている女性8470人には13,092周期の胚移植を行い、3046人の赤ちゃんが誕生しました。

それぞれの累積の出生率は

体外受精グループ:37.0%

顕微授精グループ:36.0%

でした。(差はありません)

 

男性不妊がある場合の各グループの差

体外受精グループ:35.9%

顕微授精グループ:40.1%

※有意差あり

 

男女両方に不妊原因がある場合の各グループの差

体外受精グループ:42.5%

顕微授精グループ:36.1%

 

男性不妊ではない場合の各グループの差

体外受精グループ:39.2%

顕微授精グループ:36.2%

 

という結果が出ており、ICSIが特に有効であるのは、

男性不妊因子がある場合に限定されています。

 

一方で、意見が定まってはいませんが、顕微授精によって生まれた子どもの先天異常率の差などについては

増加していると報告しているグループも、変わらないとするグループもあります。

 

現時点で言えることとしては、男性因子がある場合にのみ顕微授精を適応するというのが有効かと思います。

 

Piezo-ICSI(ピエゾイクシー)とは


より卵子へのダメージが少なく実施できる授精方法の一つに

Piezo-ICSIというものがあります。

この方法では、細な振動を用いて卵細胞質の形態が変化しないように透明帯に穴をあけ、

卵細胞質膜を吸引することなくパルスを使用して破り、卵細胞質内に精子を注入することから、

卵子への影響がより少ないということで注目されています。

 

大きな枠組みで考えた際に、精子を選別して卵子に注入するという方法が重要であることは間違いありませんが、

さらなる技術の向上や比較検討が必要な時期を迎えているということではないでしょうか。

 

妊活ノート編集部

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