培養環境の良し悪しは、患者さんにとって妊娠できるかどうかの運命を左右するほど重要です。
先日培養液については紹介しました。
今回は、培養環境における酸素分圧について紹介したいと思います。
体内の酸素濃度と胚発生の関係
胚発育における酸素濃度は、体内の環境に限りなく近くする必要があります。
以前にも紹介しましたが、卵子も精子も受精卵も活性酸素には非常に弱く、
従来胚は細胞内外に様々な防御機構があって、有害な酸化ストレスを除去するような働きがあると考えられています。
しかしながら、体外に取り出した場合、こうした機能が低下してしまって、
DNA損傷を起こしたり、細胞の異常増殖を起こしたりする可能性があるため、
培養環境を限りなく体内に近づけていく試みが必要です。
実際に、当院でも使用しているインキュベータなどでは、こうした環境を24時間監視しており、
異常があった場合には培養士へ緊急連絡がいくようになっています。
この酸素濃度について、新しい研究が報告されているため、ご紹介したいと思います。
Randomized controlled trial of low (5%) versus ultralow (2%) oxygen for extended culture using bipronucleate and tripronucleate human preimplantation embryos
Fertil Steril. 2018 Jun;109(6):1030-103
Daniel J. Kaser et al.,
この研究では胚移植に使用しないために、研究用へと寄贈された2PN胚と3PN胚を用いて、
従来通りに5%で終始培養したグループと、
Day1-Day3までを5%と培養、Day3-Day5までを2%で培養したグループとで分けて、
無作為比較化試験を行いました。
前者を5%グループ、後者を2%グループとします。
胚は大気中よりも低酸素濃度の環境を好むとされており、
一般的には動物の卵管の酸素濃度は5-7%、ヒトの子宮では2%という報告もされています。
本来、胚盤胞を体外で育てているときというのは、卵管を移動して子宮に向かっていくので、
はじめは5-7%で徐々に降圧し2%に近づいていくというのが体内の環境に最も近いと考えられており、
この研究の仮説にもなっています。
今回の研究結果では、5%群(102個)と2%群(101個)を比較したところ、
胚発生が停止する割合
5%群:58.4%
2%群:39.1%
胚盤胞に到達した割合
5%群:22.5%
3%群:40.2%
胚移植または凍結保存可能であった割合
5%群:21.3%
2%群:36.8%
この結果を見る限りでは、Day3以降に2%へ降圧していった方が望ましいと考えられ、
現在、多施設合同の大規模な無作為比較化試験が行われています。
体内の多様性はまだまだ解明しきれているわけではなく、
ベストな培養環境の構築にも終わりはないということだと思いますが、
常にUPDATEし、最高水準を目指したいと思います。