体外受精などの生殖補助医療においては、
培養環境が極めて重要な役割を果たします。
培養環境の良し悪しが、患者さんの運命を左右すると言っても過言ではありません。
今回は、その培養環境の一つである「培養液」について簡単に紹介したいと思います。
培養液とは
培養環境には様々なものが含まれます。
技術者としての培養士はその最たるものですが、
インキュベータなどの培養機器もそうです。
そして、最も重要な要素の一つが、培養液です。
1985年Quinnにより、ヒト卵管液の成分を基に培養液が開発されました。
これは、従来の複雑な組成の培養液に比べて品質管理が容易で安定した成績が得られたため、広く使用されるようになっていきます。
1996年Gardnerらは、初期胚培養用と後期胚培養用で組成の異なる連続型培養液(Sequential Medium)を開発し、胚盤胞までの長期胚培養を可能にしました。
本来、卵管膨大部で受精した受精卵は、細胞分裂を繰り返しながら、卵管を戻るように進み、子宮内膜へと着床していきます。
そのため、初期胚(受精から2-3日目)と後期胚(受精から5-6日目)とでは、環境が異なるのが体内で起こっていることという考えです。
それを可能にしたのが、上記の連続型培養液というものです。
こうした背景を受けて、胚盤胞移植というものが盛んにおこなわれるようになり、凍結技術の急速な進化と相まって、
現在の主流である凍結融解胚移植が登場してきました。
さらに培養液は進化を遂げ、連続型培養液におけるリスクを最小限に減らしたワンドロップ式というものが出てきたり、
そもそも初めから最後まで一度も培養液を変化させたり、交感させる必要のないシングルメディウムというものが出てきたり、
その進化はとどまることがありません。
最近注目されているのは、抗酸化物質添加した培養液なども出てきています。
そもそも卵子も精子も活性酸素からの影響を非常に受けやすいことで知られています。
子宮や卵管の内側は、大気に比べて酸素分圧が低く、
ヒト胚は低酸素の状態を好むということは、過去の論文等でも紹介されています。
体内では酸素分圧が低く、酸化しやすい環境で受精卵が暴露されることがないですが、
体外受精では必ずしも同様の環境とは言えません。
そのため、抗酸化物質を添加することで、活性酸素による影響を除去しようと考えられています。
このように培養液は受精卵の発育に対して、とても重要な働きをしています。
当院では、そうしたデータを集め、最適な培養液を選定すると共に、
培養液は製造された製品ですから、製品による不具合がないとは言い切れません。
そうしたリスクにさらされることが無いように、ロットNo.を分けたり、
2社以上の培養液を常に容易するなど、安全面への配慮も欠かさないようにしています。
こうした一つ一つの細かな積み重ねが、良い培養環境、良い妊娠率に関係しています。