FertiQOLというものをご存知でしょうか。
FertiQoL( 尺度)は生殖に問題を持つ男女の QOL を測定するための尺度であり
36 項目,5 段階リッカートスケールで評価されます。
2011年にBoivinらが開発しました。
リッカート尺度(スケール)というのは
良くみる以下のような質問形式です。
ヨーグルトは朝食に適していると思いますか
1.全く同意できない
2.同意できない
3.どちらともいえない
4.同意できる
5.非常に同意できる
現在26か国語に翻訳されて国際的に広く使用されています。
本尺度は生殖問題のコアとなる QOL 24 項目と
治療関連の QOL 10 項目,全体的な生活および身体
的健康に関する 2 項目から構成される.
スコアは 0点から 100 点の範囲で得点が高いほど生殖問題のあ
る男女にとって,より良好な QOL であることを示します。
PCOS患者さん(カップル)と原因不明性不妊(カップル)の間のFertiQOLの差について
今回は、不妊原因によって、FertiQOLに差は出るのかということについて論文を紹介したいと思います。
不妊原因はとても変わった治療だと思います。
というのは、原因そのものを治す根治治療でないものが思いのほか多いことがあるからです。
風邪をひいたので、薬を飲んで治す
虫歯になって、削ってもらって治す
骨折したから、ギブスつけて治す
というようなものが、これまで受けてきた治療であるのに対して、
不妊治療はそうでない場合が多いです。
話がそれてしまいますが、過去の調査で、
例えば卵管性不妊があり、体外受精にてお子さんを授かった方の
「不妊」
という意識は治療・妊娠・出産前後で約半数近くで変わらないという結果が出ています。
(もちろん、その後出産されたことによる別の部分での肯定感は増すと思います)
病院に行くという自分自身の行動をもって、結果を左右できるものではないため、
特にQOLとは密接にかかわってくるのもうなずけますね。
さて、今回の研究については以下を紹介します。
Hum Repro2016Oct;31(10):2268-79
Santoro N et al.,
この研究では、2つの同時並行無作為化臨床試験から得られた前向きコホート研究であり、
登録時にPCOSおよびUIを有する不妊女性のQOLをお互いおよびその男性パートナーと比較して調べるように設計されています。
その結果によると以下のようなQOLスコアとなっています。
PCOSのグループ
PCOS女性(733名):72.3
PCOSパートナー(641名):84.9
カップル間の差:-12.3
原因不明性不妊のグループ
原因不明性不妊の女性(865名):77.1
原因不明性不妊の男性(849名):83.3
カップル間の差:-6.3
グループ単位での比較では、
PCOSを有する女性は、原因不明性不妊の男性および女性と比べてFertiQOLが低いこと
PCOS女性のパートナーは原因不明性不妊の男性よりもFertiQOLが高い
ということが判ります。
カップル間で比較をすると、
また、PCOSグループのほうが、男女のギャップが大きいことが判ります。
PCOSは非常に多くの女性にみられる排卵障害の一種であるため、
単に未成熟な卵子がたくさんある、ということだけでなく、
月経不順など、生活に対して与える影響が多いこともあるでしょうし、
原因不明性不妊と比べて、女性からすれば明確に自分の責任ととらえてしまうことあうのではないかと推察します。
実際に、FertiQOLの中でもEmotional(感情)、Mind/Bodyの項目で低い値が見られています。
不妊原因が分かったとして、それを100%治す術があるかわかりませんし、
そこを治せたとして100%妊娠するかはわかりません。
もともと人の妊娠率は低いといわれています。
ただ、こうした調査からは原因が特定できている場合のほうが、
もしかすると、その原因を有する方への精神的な負担は大きいということが示唆されます。
そのような場合には、遠慮なくカウンセリングなどをご利用いただければと思います。
また、パートナーの方にもこうしたことを理解していただき、
妊娠という共同作業に向けたサポートをお願いしたいと思います。