先日、2018年5月10日に仙台で、
日本産科婦人科学会学術講演会が開催されました。
今回が70回目の開催ということで、歴史を感じますね。
今回も当院からは様々な発表を行いましたが、
その一つであるポスター発表の内容についてご紹介したいと思います。
当院が考える最も安全で最適な妊孕性温存の戦略
2000年から妊孕性温存への取り組みを続けてきた私たちが、
今現在たどり着いている中でのベストな妊孕性温存の在り方について
発表いたしました。
1つは緩慢凍結法です。
以下でも紹介をしたことがありますが、妊孕性温存はまだその安全性が未確立な領域です。
特に卵巣組織凍結については、その色が非常に濃いと言ってもよいと思います。
その中で、ガラス化凍結法と緩慢凍結法を現時点で比較をしていくと、
やはりガラス化法の場合、融解後に凍結保護剤の残存が確認されます。
そのまま移植となると、母体にその凍結保護剤を持ち込むことになり、
母体並びに生まれてくる赤ちゃんへの影響が否定できないということです。
諸外国では緩慢凍結法での実施がされている中で、
現時点での第一優先は緩慢凍結法であることと、
同時にコストの面からは、今後新たな安全性をもったガラス化法の開発などが求められます。
それはコスト的な面でも患者さんへの貢献度が高いものと考えられています。
また、ネットワーク化が次のキーワードです。
妊孕性温存にかかわるスペシャリストや施設は「点在」しています。
それが地域格差につながっているのが実情で、
A病院では、卵巣凍結が実施できないので、他院に転院しなければならない。
カウンセラーが不在なので、カウンセリングできない。
といった事態を招きます。
では各都道府県に抜けもれなく人材を配置できるかというと、
それは現実的ではありません。
コスト的な負担をかけずに、患者さん目線を全うしたまま、
妊孕性温存の選択肢を広げるためのキーワードが
「ネットワーク化」
です。
ここでは、
搬送システムを用いたネットワーク
と
遠隔診療などを用いた持続的なサポートのネットワーク
を提唱しています。
当院では、日本全国向けに搬送システムを構築し、
24時間以内の搬送を可能にしています。
そのため、自施設に卵巣組織凍結が可能な設備がなくとも、
患者さんへその選択肢が提示可能となります。
搬送時間中の温度管理についても、研究を重ね、
先行するドイツなどでも、クォリティに問題はないことが報告されています。
また、遠隔診療を用いたネットワークにも力を入れています。
妊孕性温存には二つの側面があり、
緊急的な初動
継続的な対応
があります。
すぐにでも診察を受けなければいけないけれど、
身体的に難しいことも少なくないため、
緊急性を維持したまま、患者さんに負担を強いないという点で非常に有用と思われます。
また、継続的な対応ということでも、
がん治療はホルモン療法などが数年単位で行われることが多く、
入院期間が終わった後は、フォローがどうしてもそれまでより弱まります。
この時、通院負担なくカウンセリングや診察が可能になりますし、
患者さんのライフイベントによる変化があっても、主治医を変えることなく、
治療ができることは、患者目線ではとても良いのではないかと考えます。
様々な技術の進化によって、できることは広がってきていますが、
その中でつねに「患者目線」を忘れることなく、
常に最適な治療をUPDATEしていきたいと思います。