体外受精は、生殖医療の技術の中では最も妊娠する確率が高いものです。
不妊の原因には様々なものがありますが、多いところからでは、
①卵管の通りに何か問題がある場合
②排卵がうまくされない場合
③原因不明性不妊(ピックアップ障害など)
があります。
これらの原因をすべてキャンセルして、治療できるのが体外受精とも言えます。
卵管が詰まっていても、本来卵管で起こるべきことをシャーレの上で行うことが出来ますし、
うまく排卵できないものを薬剤を使用して育て、体外で受精させることができますし、
ピックアップできないかもしれない部分をシャーレの上で解消でき
受精後にどのような変化をしていったのかもすべて経時的にみることさえ可能です。
一方で、そこまでできるとは言っても100%の治療効率ではなく、
そもそもの治療としての限界と、年齢的な影響を受けることが考えられます。
今回は、提供卵子(若い方の卵子)をもとに、体外受精の限界値について考えてみたいと思います。
体外受精の限界 卵子一つあたりの妊娠率は
Cobo A et al.,Fertil Steril. 2015 Dec;104
Six years’ experience in ovum donation using vitrified oocytes: report of cumulative outcomes, impact of storage time, and development of a predictive model for oocyte survival rate.
この論文では、2007年から2013年の6年間で得られた3610周期の卵子を対象に後方視的な研究を行いました。
融解後の卵子の生存率90.4%
その後の着床率39.0%
妊娠継続率39.9%
臨床妊娠率は48.4%
でした。
卵子1つ当たりの妊娠率は6.5%であったとしています。
また、凍結期間の長短による臨床への影響は認められなかったということです。
こうした観点から、1度の妊娠のために必要な卵子の数は15-16個前後と考えられるようになってきています。
年齢によっても異なりますし、男性側の因子も関係してきます。
卵巣過剰刺激症候群などの副作用もあるため、過度な刺激は禁物ですが、
患者さんにとって、望みをかなえつつ、本当の意味で少ない身体的、精神的、経済的な負担で治療を行うことを考えていくと、
こうした目標採卵数を定めたうえでの調節卵巣刺激が欠かせないものとなっているように思います。
限界を知ることで、初めてきちんとしたプランが経つというものですね。
この論文は凍結卵子を使用しての研究ですが、
治療を始めようと思っているとき(=その人にとって一番若いとき)に複数の卵子から受精卵を得て凍結保存しておき、
タイミングに合わせて凍結融解胚盤胞移植を行うという考え方が今後主流になってくるのではないでしょうか。