卵子凍結は受精卵凍結に比べて歴史が浅い上に、
治療法として推奨されるレベルは一段低いと考えられています。
凍結をして、融解するプロセスが1回増えることが与える胚への影響がその課題の一つで、
凍結した成熟卵子を融解した際に、「生存率」という言葉で表現されますが、
100%ではないため、せっかく得た卵子を無駄にしてしまうかもしれない可能性がありますし、
歴史が浅い分、長期的な予後のフォローアップはまだ十分ではないことも考えられます。
今回、イギリスから出てきた最新の報告について紹介したいと思います。
イギリスからの報告:凍結融解提供卵子の顕微授精成績とその後の比較
今回の研究では、ガラス化凍結法にて凍結されたドナー(提供)卵子1490個の顕微授精での成績と
自身の凍結していない新鮮な卵子で顕微授精を行った1528例成績とを比較し、その後の産科予後についても検証しました。
Clinical outcomes of a vitrified donor oocyte programme: A single UK centre experience.
Seshadri S et al.,Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2018 Apr 22;225:136-140
具体的には、
妊娠率
出産率
妊娠期間
出生時の体重
について比較を行いました。
結果としては、以下のようになります。
①妊娠率・出産率は自己の新鮮卵のほうが成績が良い
└妊娠率は提供凍結卵子が51.8%に対して、自己の新鮮卵では59.3%(胚移植あたり)
└出産率は提供凍結卵子が46%に対して、自己の新鮮卵では57.1%(胚移植あたり)
②凍結融解後の卵子の生存率は、73.6%だった
③在胎週数および出産時の体重については両群で差がなかった
└在胎週数は共に39週、出生児体重は3100g対3232gで有意差を認めなかった。
└凍結融解した卵子1個あたりの出産率は4.3%
ここでのデータの比較では、確かに自己新鮮卵子と比べてやや劣ったものの、
妊娠率51.8%、出産率46%はとても高い数字ではないかと思います。
今回の対象は「ドナー」卵子です。
つまり年齢的な影響の少ない若い卵子であるということですね。
医学的適応であれ、社会的な適応であれ、
適切な年齢で行われた卵子凍結の成績は高いことがわかりました。
特に社会的適応については、結婚や妊娠・出産の先延ばしになるのではないかという
懸念も言われますが、一方でこうした正しい情報を合わせて判断し、
様々なところで叫ばれている「多様性」の選択肢の一つにしていただければと思います。