最近では、多くの医療機関でタイムラプス型の培養器(インキュベータ)が導入され、
培養環境のレベルアップが図られています。
体外受精は、本来女性の身体の中で起こるべきことを
体外で行うというものです。
受精卵は、卵管采付近で受精した後、
胚分割を繰り返しながら、卵管を子宮のほうへ戻るようにして進んでいきます。
そのため、培養器の環境は卵管の環境に近づけるように考えられています。
今回紹介する論文は、培養器の温度について紹介しています。
最適な培養器、培養環境の温度は
卵子、受精卵を培養する上で温度は重要なポイントです。
Comparing 36.5°C with 37°C for human embryo culture: a prospective randomized controlled trial.
Mohamed Fawzy et al.,Reprod Biomed Online. 2018 Mar 27
対象:2012年11月から2015年12月にエジプトのIVFセンターでICSI(顕微授精)を施行した391名の患者
方法:ICSIを施行し、36.5℃のインキュベーターで培養した194名の患者による受精卵のグループと
37.0℃で培養した197名の患者の受精卵のグループとで比較しました。
どちらのグループもCO2濃度、O2濃度、pHは同様にし、培養液、培養容器(培養するための入れ物)は全て同じものを使用しました。
また、凍結精子、TESE(精巣内から直接、精子を採取する手術)精子を用いた症例は除いています。
結果:
受精率、培養3日目の良好な受精卵の割合、培養3日目でコンパクション(発生の進み具合)した受精卵の割合、
良好な胚盤胞の割合、受精卵の凍結保存率においてそれぞれ36.5℃のグループよりも37.0℃のグループで有意に高くなりました。
培養3日目の分割率は36.5℃のグループで有意に高くなりました。
その後の妊娠率、妊娠継続率、流産率、双胎率に有意な差はありませんでした。
以上の結果より、36.5℃での培養と比べて37.0℃で胚発生が改善していました。
培養3日目の分割率において36.5℃のグループの結果が良かった理由として、
子宮や卵管は体温よりもやや低いとの報告があり、受精卵を培養する温度の範囲内であったからではないかと述べています。
しかし、質の良い受精卵を得るためには37.0℃での培養が最適だと考えられます。
0.5℃の差ですが、受精卵にとって培養環境はとても重要であるということが分かります。
当院の培養環境を紹介
当院では、すべてのインキュベーターの温度を37.0℃に設定して培養を行っております。
毎日、朝と夕方に培養士が表示される温度に異常がないかをチェックし、
さらに1週間に1度、温度測定の装置を用いて実際の温度を測っています。
この温度を測定する装置も1年に1度校正し、正しい温度を測定できるように管理しております。
また、ICSI(顕微授精)施行時や胚観察時など、卵子や受精卵をインキュベーターの外に出す場合は
37.0℃に設定したホットプレートの上に培養容器を置いて作業をしています。
温度のほかにもCO2濃度、O2濃度、pHを測定し、正常な値を示したインキュベーターのみ使用しており、
温度やガス濃度に異常がある場合、培養士にアラームの連絡が来るシステムも導入しているためすぐに対応をすることができます。