現在、日本産科婦人科学会では着床前スクリーニングのパイロットスタディ(臨床研究)を実施中であるほか、
重篤な遺伝性疾患を有する方や習慣流産の方にむけての着床前診断が
日本産科婦人科学会へ申請して承認を受ければ実施することができます。
着床前検査とは
着床前の検査として、従来はPGD(着床前診断)とPGS(着床前スクリーニング)とがあります。
現在では、PGDはPGT-M&SR、PGSはPGT-Aとも呼ばれます。
結論的なことを言えば、この検査の目的は
「流産をできるだけ回避する」
ことにあると思います。
性の選別やいわゆるデザイナーズベイビーということにはなりません。
従来のPGD、PGSについてそれぞれ解説したいと思います。
PGD(着床前診断)とは 反復流産の原因とは
反復着床不全や反復流産の原因には、母体側の要因と受精卵側の要因とがあると考えられており、
なかでも、最も多いのは受精卵の染色体異常で全体の70%程度と考えられています。
そのうち50%は誰にでも起こりうる染色体の数的な異常であり、加齢とともに出現頻度が高まります。
誰にでも起こりうるものであり、回避することができません。
そのため、加齢とともに流産率が高まると考えられています。
染色体の数的異常の検査は、着床前スクリーニング(PGT-A:Preimplantation Genetic Testing-Aneuploid)と呼ばれ、
上述の通り、現在パイロットスタディを実施中です。
その他、受精卵側の要因としては、重篤な遺伝性疾患に加え、均衡型染色体構造異常が関係していると考えられていて、
この遺伝性疾患を持たれている方と均衡型染色体構造異常(転座)を保有されている方に向けた検査が着床前診断(PGD)と呼ばれ、
日本産科婦人科学会で認定された施設において、症例事に審議され実施されています。
世界的には、現在PGDというよりは、遺伝性疾患に向けた着床前検査はPGT-M、習慣流産を対象としたものをPGT-SRというように呼びます。
少し経緯的な解説を加えると、着床前診断は、平成10年に日本産科婦人科学会から見解が示されてから、重篤な遺伝性疾患に限って適用されてきましたが、
生殖補助医療技術の進歩、社会的な要請の出現に伴い、染色体転座に起因する習慣流産に対する本法の適用が検討され、
議論に議論を重ねて、平成18年に「染色体転座に起因する習慣流産(反復流産を含む)を着床前診断の審査の対象とする」という見解を発表しました。
染色体転座に起因する習慣流産では自然妊娠による生児獲得も期待できることが多いため、実施施設にはART施設としての臨床成績に加え、
十分な専門的知識と経験に基づく遺伝カウンセリングが必要と考えられてます。
ここで言えることは、単に治療技術があればいいというわけではなく、ゲノムに関する情報に触れるということは、
思っている以上に複雑なことであり、ご夫婦はもちろん、生まれてくる子供のこと、
ご夫婦にとってのご両親にまで関係してくる可能性もあるため、
十分な熟慮のもと、遺伝カウンセラーによるケアを受けながら、実施されなければいけないということです。
これは、PGT-Aについても同様になるのではないかと考えられます。
PGT-M&SRのメリットそしてデメリット
PGT-M&SRは簡単に言えば、
卵巣刺激をして、得られた胚盤胞の細胞の一部を採取して、
その細胞における遺伝的な情報を解析するというものです。
メリットもデメリットもある検査ですが、
メリットとしては、着床前診断の実施によって反復流産の回避ができる可能性および妊娠する可能性が高まることが考えられます。
ただ、この検査を実施しなくても、健康な子どもが生まれてくる場合も、流産せずに出産できる場合もあります。
あくまでも、反復流産の確率を下げる、ということがこの検査の一番のメリットです。
100%ではないのです。
一方で、この検査はまだ一般的な検査ではなく、臨床研究段階の技術です。
そのため、デメリットとしては、
・胚から一部の細胞を採取する過程で、胚自体に影響を及ぼす可能性がある
・検査した胚のすべてに異常があり、移植できない場合があります
・検査精度には限界があり、診断結果が得られないことや不確かな診断となる場合もあります
・検査結果によっては判定不能となり、移植できない場合もあります
・検査により染色体構成が標準型か均衡型相互転座かを区別することはできません
・相互転座に由来する異常以外に検出された数的異常についての開示はできません
・妊娠後の出生前診断の替わりになる検査ではありません
・男女の性別の開示はできません
・異常をもたないと診断された胚を移植しても妊娠しないこと、流産してしまう可能性もあります
というようなデメリットがあります。
また、この検査には体外受精が必須です。
時間的にも経済的にも様々な負担が発生します。
これだけのデメリットと引き換えにしてでも、流産を回避するということは重要とも考えられますが、
十分に議論を重ねて審議のうえで適応していく必要があると考えられています。