基礎知識

顕微授精のリスク・デメリットについて

患者さんからよくいただく問合せで、

「受精率が高いのなら、すべて顕微授精でやってほしい」

というようなものがあります。

 

先に当院の方針で一般的なところを紹介すると、

初めての体外受精に臨むという方で、複数の卵子が得られている場合は、

  1. Split法(スプリット法:通常の体外受精と顕微授精と半々)を推奨し、
  2. これまで体外受精をしたことがあり、受精したことがわかっている場合には、通常の体外受精の適応
  3. 男性不妊因子がある場合には、顕微授精の適応

というような方針が大まかなところです。

もちろん、卵が得られた数や状況に応じて、変わっていくものなので、

基本的な考えとしてとらえていただければと思います。

 

過去の論文を紹介したいと思います。

 

顕微授精と体外受精どちらがいい?


せっかく治療するのであれば、より高い妊娠率のほうが良い

できるだけ治療費は安くしたい

ご意見は様々だと思います。

 

そのヒントになる論文を一つご紹介したいと思います。

Conventional in-vitro fertilisation versus intracytoplasmic sperm injection for the treatment of non-male-factor infertility: a randomised controlled trial

Lancet. 2001 Jun 30;357(9274):2075-9.

この研究は、

4つのイギリスの施設で共同で行われたランダム比較化試験です。

無作為比較化試験ともいわれるのですが、これは研究の方法としては、

最も信頼度の高い方法です。

簡単に要約すると、今回の研究の場合では、体外受精と顕微授精を行う人たちを

同じようなグループになるように、「無作為に」「ランダムに」分けて、

その方々から得られた結果を比較しているものということです。

合計435回の治療周期が行われ、IVF 224回、 ICSI 211回でした。

 

その結果としては

着床率では、体外受精のほうが有意に高かった

(体外受精30%:顕微授精22%)

 

妊娠率では両グループに差はなかった

(体外受精33%、顕微授精27%)

※解釈によっては、体外受精後でも高かったということです。

 

また、こうした体外受精にかかわる培養士の対応に費やした時間についても報告されており、

平均時間は体外受精のほうが短かった。

(体外受精22.9分、顕微授精74分)

 

本来であれば、同じ人物同じ周期ですべての胚を、体外受精・顕微授精とで分けて、

そのすべてを比較すべきなのかもしれませんが、臨床を行う上では、困難なことです。

 

こうした研究成果も踏まえながら、極端に顕微授精だけ、体外受精だけ、という考え方をせずに、

私たちでは、冒頭に紹介したような方法を採用しています。

 

もちろん受精率は顕微授精のほうが高くなる傾向にありますが、

その後の胚発育や着床率、妊娠率ということを見ていくと両群間には差が少ないことが判ります。

つまり、受精するプロセスを超えていければ、差はなくなるとも考えられますし、

上記の研究だけを見れば、体外受精のほうが成績が良いとも考えられます。

 

 

 

 

 

妊活ノート編集部

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