当院では、すべての受精卵に対して、
タイムラプスモニタリングシステムを用いて
受精確認から第一分割までの観察をしています。
タイムラプスモニタリングシステムについての紹介は以下から確認いただけます。
今回は受精確認から第一分割までの観察の重要性について解説したいと思います。
受精確認から第一分割までに起こること
改めて、タイムラプスとは胚の成長を連続して観察することができる装置で、
成長の過程で起こる重要な現象を見逃すことなく培養することができます。
通常の受精から第一分割までの流れは以下のようになります。
通常の観察方法では、約10〜15%の受精卵において前核が消失しており、
受精しているかどうか、正常受精しているかの判断が難しいのが実際です。
しかし、タイムラプスを用いることで前核の確認を確実に行うことが可能です。
また、「異常な分割(ダイレクト分割、リバース分割、不明瞭な分割など)」や
1つの割球に複数の核が出現する「多核」の発見も可能です。
通常の流れは以下のようになります。
ダイレクト分割:1細胞から3細胞以上に分割
※通常は、受精確認⇒2細胞⇒4細胞
リバース分割:一度分割した細胞が戻る
※従来の観察方法では、たまたま取り出したタイミングで2細胞、といううように
判断してしまうかもしれませんが、タイムラプスであれば継続観察が可能なので、
発見できるということです。
不明瞭な分割:分割がはっきりせず、分割面が不明瞭
多核:1つの細胞に通常1つである核が2つ以上ある
こうした異常を発見し、より良い胚の選別につなげていくことが
タイムラプスの役割です。
今回は、このタイムラプスを用いて、胚観察を行いて、
胚の発生能および倍数性(染色体数が正常であるか)が予測できるのかという論文を紹介します。
Nina Desai et al.Fertility and Sterility 2018
この研究では、
2012年~2016年にアメリカ オハイオ州のクリニックでICSI(顕微授精)を行い、
胚盤胞でPGS(着床前スクリーニング)を行った130名の患者、1,478個の胚盤胞を対象としました。
患者の平均年齢は36.3±4.3歳です。
結果として考えられるのは、
・ダイレクト分割、不明瞭な分割が観察された胚の拡張胚盤胞率は低下する。
・ダイレクト分割、リバース分割、不明瞭な分割、多核の事象が“単体”で観察された胚でも、
異常な事象が観察されなかった胚と比較して染色体正常率は変わらない。
しかし、これらの異常な事象が“複数”観察された場合は染色体正常率が有意に低下する。
異常な事象 |
拡張胚盤胞率 |
P値 |
染色体正常率 |
P値 |
なし |
68.4% |
- |
43.0% |
- |
多核 |
65.2% |
NS |
42.3% |
NS |
リバース分割 |
57.7% |
NS |
52.6% |
NS |
ダイレクト分割 |
34.0% |
0.0001 |
50.0% |
NS |
不明瞭な分割 |
52.6% |
0.01 |
40.4% |
NS |
複数あり |
48.6% |
<0.05 |
27.6% |
<0.05 |
また、観察を行っている中で、もう一つ明らかになってきていることがあります。
関係しているのは速度(時間)です。
<結果2>
・tSB(胚盤胞腔形成開始時間)、tEB(拡張胚盤胞到達時間)、
tEB-tSB(胚盤胞腔形成開始から拡張胚盤胞到達までの時間)が染色体正常率に関係している。
・tSB ≧ 96.2h、tEB > 116h、tEB-tSB >13hで染色体正常率が有意に低下する。
時間 |
染色体正常率 |
P値 |
tSB |
||
< 96.2h |
48.1% |
<0.05 |
≧96.2h |
37.6% |
|
tEB |
||
≦116h |
46.8% |
<0.01 |
> 116h |
30.0% |
|
tEB-tSB |
||
≦13h |
47.7% |
<0.01 |
> 13h |
31.5% |
これらの結果から、改めて、タイムラプスによる形態的かつ経時的な観察を行うことの重要性が示唆されます。
今後も様々な研究報告がされることと思います。
当院で行った研究の一部は以下でも紹介しています。