こんにちは、生殖心理カウンセラーの菅谷典恵です。
ドラマは9回目を迎えました。
前回、体外受精での妊娠といううれしい展開でしたが、
今回は流産という本当に悲しい結果になりました。
まず医学的な観点から、流産について少し説明してみたいと思います。
心拍が確認できたのに流産?
心拍が確認できたのに流産?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、
赤ちゃんの心臓の鼓動が確認できた後でも流産となってしまうことがあります。
もともとヒトは流産する確率が高いのです。
20代でも10%前後、35歳を過ぎると20%以上の確率で流産すると言われています。
妊娠初期の流産の主な原因は、赤ちゃん側の染色体の問題です。
46本の染色体のどこかにこれ以上成長が難しいですという情報が存在した、ということです。
流産したからといって、ご夫婦の染色体に異常がある、ということではありません。
赤ちゃんは独立した染色体を持っていますので、親の染色体とイコールにはなりません。
(何度も流産を繰り返される場合には、ご夫婦の染色体の検査や不育症の精密検査をすることもあります。
不育症に関しては、当院では初診から間もなく主な検査を受けていただくことが多いです。
後から不育症が発覚する、ということを排除するためです。)
次に、心理的な観点から流産を見てみたいと思います。
流産≒「見えない喪失」
流産を経験したことがある方は多いのですが、一般的に話題にすることは少ないので、
「見えない喪失」
と言われます。
たとえば誰かが亡くなったら周知の事実が存在しますが、
流産はご夫婦にとって同じ意味を持つのに一部の人しか知らない、という状況が多いと思います。
つまり、自分たちの中ではとても悲しい重大な出来事が起こったのに、周りの人とは共有することが少ないということです。
伝えていないことがあるとコミュニケーションに死角ができるので、
思わぬ方向から傷つきの要因が表れたりします。
もちろん、受け止め方に個人差はありますが、
この見えない喪失をしっかり受け止めることがとても重要な場合が多くあります。
患者サイドと医療サイドの感覚の違い
そして、伊藤かずえさんが演じる医師の対応が思いの外淡々としていたな、と感じられませんでしたでしょうか?
「完全流産で、もうお帰りになって大丈夫です」
というセリフには、
「大事を取って入院とかしなくていいの?」
という感覚を持ちますが、残念ですがその必要はないのです。
そして、流産は食い止められるものではないのです。
もっと早く病院に来ていたらどうにかなったのではないか?
バーベキューなんかせず安静にしていたらこのようなことにはならなかったのではないか?
と後悔しそうですが、妊娠初期の流産は赤ちゃん側の要因で起こるため、
女性の行動、思考や食事などで引き起こされるわけではありません。
「自分のせいでこうなったのではないか、みんなに申し訳ない」
と感じがちですが、自分を責める必要はないのです。
したがって、医師は「凍結受精卵があるから戻しましょう」という未来の治療プランを提案しました。
でも
すぐに治療を再開したくない、少し休みたい
流産の原因をもう少し説明してほしい
なんとなくもやもやする
というお気持ちを持たれることも当然だと思います。
頭では理解できていても、気持ちがついていけるかどうかは別の問題です。
気持ちが落ち着くには時間もかかりますし、
悲しいことがあった場合には「十分に悲しむ」ということが一番必要です。
これは心理学的にはとても重要な作業です。
十分に悲しむことができた後に、気持ちの回復は訪れます。
悲しみを最小限にする方法や、悲しまなくても良いメンタルの持ち方、などは残念ながら存在しません。
悲しいことがあったら、泣いて良いし、元気が出なくて当然であり、無理することは厳禁です。
こうした際は、お気軽にカウンセリングをご利用いただければと思います。
カウンセリングはつらいことを無理に話していただく場ではなく、
自然に出てくる言葉で気持ちの整理を助けてあげる場です。
ドラマでも最後のシーンで深田恭子さんが泣き崩れました。
マタニティマーク、想いが溢れますね。
我慢することなく悲しい気持ちを表出していただきたいです。
次回は最終回ですが、どのような展開になるのか期待したいと思います。