患者さんへ以前アンケートをとり、クリニックを選ぶ際に何を基準としているかを
お尋ねしたことがあります。
その結果、分かったことは
①症例件数
②妊娠率
③評判
というような順番でした。
そのため、セミナーでも何度もお伝えしているのですが、
この症例件数や妊娠率というのは正しく理解しないと、大きな誤解となってしまいます。
今回は妊娠率についての考え方について、海外での研究を交えながら解説したいと思います。
過去の妊娠率に関しての記載は以下からも確認いただけます。
本当に知りたい妊娠率は患者さんあたりの妊娠率
生殖医療、今回は体外受精以上の治療に限って解説しますが、
患者さんが本当に知りたい妊娠率はおそらく
患者さん一人あたりの妊娠率
ではないかと思います。
これから治療を始めるとして、いったいどれほどの確率で妊娠できるのか?ということです。
体外受精以上の治療を望まれる場合には、
卵巣刺激をして採卵をしますが、人数をたとえて記載すると
①採卵した:100名
②成熟卵が得られた:80名
③正常に受精した:60名
④胚盤胞に育ち移植を行った:25名
⑤胎嚢(GS)確認:10名
というステップになります。
(人数はあくまでも目安となります)
妊娠率を表現するうえで、分母になるのは上記の①から④が考えられます。
分子になるのは⑤ですが、ときにこの④と⑤の間の化学的妊娠を含むという医療機関もありますので、
その点には注意が必要です。
わかりやすい意味での妊娠率は胚盤胞の移植当たりということになりますが、
当院でも実施にそうした指標で表現をしています。
日本ではおおよそ30-40%と言われることが多く、
着床前スクリーニングが行われている諸外国では、50-60%と言われます。
しかし、実際に一番患者さんが知りたいのは本来①あるいは、その前、
そもそも体外受精以上の治療を希望した人のうち何人が赤ちゃんを抱けるのかということだと思います。
今回は、世界的なスタンダードになりつつある「全胚凍結(Freeze-All-Strategy)」を実施した症例への大規模研究を元に
治療した人に対してどれくらいの人が妊娠に至るのかということついて解説したいと思います。
全胚凍結によって得られる妊娠率
以下の上海での研究について紹介したいと思います。
Live birth rates in the first complete IVF cycle among 20 687 women using a freeze-all strategy
簡単に研究の概要を以下に記載します。
対象
2007年1月1日から2016年3月31日までに中国で全胚凍結で、その後融解胚移植を行った20 687人の女性
結果
└全体としては、全胚凍結を実施した患者のうち50.74%の方が出産に至っている
└31歳未満の生児獲得率は63.8%、40歳以上の生児獲得率は4.71%と年齢によるばらつきが大きいこと
結果から考えると、40歳以上の生児獲得率は低すぎるような印象もありますが、
やはり年齢に応じてこのような妊娠率の動きになること自体はうなづけます。
余談ですが、このように幅ひろい年齢層を混ぜてしまって妊娠率を出してしまうと、
プラスもマイナスも誤解を生んでしまうので、ご自分の年齢や年代での妊娠率を見ることが必要となります。
また、この研究は後方視的研究というもので、後から結果を振り返りフォローしたものなので、
有効性を証明するには足りません。
しかし、現在世界的にスタンダードとなっている(卵巣予備能等が通常の範囲であれば)
一度の採卵で多くの成熟卵子を得て
得られた胚盤胞は全て凍結し
別周期でホルモン補充を行い、融解胚移植を行う
という方法での妊娠率・出生率の高さはおよそ推測がつきます。
当院でもできる限りわかりやすい妊娠率をお伝えできるように、
様々なデータを調べ、公表していきたいと思います。