卵巣組織凍結は、妊孕性温存療法の中では、まだまだ実験的とされているものの、
がん治療の現実と照らし合わせて考えていくと、いよいよその適応が広がっていると考えられています。
抗がん剤による生殖機能毒性については、年代ごとに異なるのが特徴であり、
卵巣予備能の低下は10歳未満が10%以下であるのに対して、10歳を超えると30%程度になると考えられています。
これはASCO(American Society of Clinical Oncology(米国臨床腫瘍学会))という学会のガイドラインでも示されていることです。
しかし、明確に生殖機能の毒性が高いか低いかを予想するマーカーはまだ確立されているとは言えないため、
がんの症状や年齢などに応じて、適応を決めていかなければいけません。
摘出方法については、現在では原則片側卵巣の全摘出というのが、スタンダードとされるようになってきました。
世界的な研究では、卵巣を全摘出した場合のほうが、閉経が1-2年早まると考えられているためです。
2004年にJ Donnezが初めて卵巣摘出・移植からの生児獲得を報告してから15年近くが経過していますが、
これまでの累計では130人以上の生児が得られており、妊娠率は29-41%、生児獲得率は23-36%となっています。
これは、卵巣凍結に最も期待されるところの、妊孕能の温存の高さが発揮されていることの表れとも考えられます。
卵巣組織凍結の広がる適応と可能性
卵巣組織凍結はいまだ実験的な技術としての位置づけと日本ではされているため、
一例一例に対して厳格な適応が求められることは大前提として、
その適応は徐々に広がってきているものと考えられています。
卵巣組織凍結の適応にかかわるのは、そのデメリットとしてあげられる
MRD(微小残存病変)を体内に持ち込んでしまうことによるがんの再発リスクということで、
一般的な例では白血病がその例として挙げられてきました。
しかしながら、最近の報告では、初回の寛解を得られた後、骨髄移植前に卵巣組織凍結を行うことで、
再移植後のがん細胞の再移植を避けられるという考え方も出てきています。
その他、摘出した卵巣から人工卵巣に原子卵胞や二次卵胞などの未熟な細胞を移して、
卵胞を培養する研究などがなされており、様々な技術革新の元に、
卵巣内にMRDがハイリスクに含まれる疾患であっても卵巣組織凍結が適応となる機運が高まっていると考えます。