第8回日本がん・生殖医療学会 学術集会において、高輪院検査部の佐藤愛(めぐみ)が「優秀演題賞」を受賞いたしました。
先日、2月11日(日)に東京・御茶ノ水ソラシティにおいて、
第8回 日本がん・生殖医療学会 学術集会が開催されました。
当学会は、日本における妊孕性温存を推進していく最も大きな学会で、
生殖医療関係者、がん治療関係者ならびにヘルスケアプロバイダーと呼ばれる
看護師、心理士、薬剤師などが多く集まります。
今回も、会場には500名近い方が参加され、非常に盛会となりました。
日本の妊孕性温存の第一人者たちが集まり、非常に多くのディスカッションがなされました。
一例をご紹介いたしますと、
- 妊孕性温存をしようと思ったものの、選択できなかった、選択したけれど恵まれなかった方々へのフォローアップをどうしていくべきか
- がん・生殖医療の連携を都道府県で推進していく中で出てくる「未整備地域」はどうなるのか
- 現在は乳がんが主な適応となるものの、卵巣組織凍結においては、今後は小児への適応が増えるのではないか(小児がんは進行が非常に早く、治療開始までの猶予がないことや年齢によって月経が来ていないため、他の方法は適応できない)
- 患者目線で考える「アピアランスケア」の重要性
- 妊孕性温存にかかわる看護師に求められる次の役割
- 助成金の重要性
など、非常に先進的かつ重要なテーマが議論されました。
この内容のレポートはまた別途ご紹介したいと思います。
そのような中、今回、高輪院検査部の佐藤愛が優秀演題賞を受賞いたしました。
その発表内容について一部ご紹介したいと思います。
「妊孕性温存における精子凍結の有効性について」
対象:1997年1月から2017年11月に当院で妊孕性温存を目的として、精子凍結を行った195症例
内容:以下について検討し、結果を得ました。
凍結希望患者の背景:精子凍結希望の過半数が未婚である
精子凍結時の原疾患の内訳:精巣腫瘍と造血器リンパ疾患が大半
精子凍結時の患者状況:過半数が化学療法前に精子凍結を実施
精子凍結時の精液所見:化学療法・放射線治療後で精液所見は悪くなる
凍結後の患者転帰:25%が生存を確認しており、70%以上は不明である
※引っ越しなど患者さん側の事情によって連絡が取れない方が多いという意味です。
現在の精子凍結状況:60%が凍結後廃棄している
原疾患治療終了後の妊娠:
①がん治療を終え、凍結精子を使用した28症例(精子凍結した患者の14%)
②そのうち妊娠に至ったのは20症例(治療を行った71%が妊娠に至っている)
※化学療法後の自然妊娠が1症例
結論:上記結果より、以下結論となりました。
・がん治療により、乏精子症または精子無力症、無精子症になる可能性がある
・がん治療後、当院での妊娠症例の半数以上が凍結精子を用いたARTによるものであった
・患者QOL向上のため、化学療法前・放射線治療前の妊孕性温存目的の精子凍結は必要である
という内容にて発表いたしました。
会場で発表する高輪検査部の佐藤愛
日本がん・生殖医療治療学会 会長 鈴木直先生より表彰
後日、当院受付にて撮影(お疲れさまでした!)
当院では、妊孕性温存を精力的に行っています。
妊孕性温存というと、胚凍結、卵子凍結や卵巣凍結と女性側のことに意識がよりがちですが、
最も安全かつ学会やガイドラインでも推奨されているのは「精子凍結」であることは、意外と知られていません。
実際に、昨年発刊された小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診察ガイドラインでは、
泌尿器の欄において、以下のように記載されています。
CQ1:どのような泌尿器がん患者に妊孕性温存を説明すべきか?
⇒不妊のリスクが高いと予想される治療が実施される場合、妊孕性を希望する患者に対しては病状を考慮したうえで、
治療開始前に妊孕性温存療法に関する説明が推奨される(推奨グレードB)
CQ4:挙児を希望する泌尿器がん患者に勧められる妊孕性温存療法にはどのようなものがあるか?
⇒男性患者には、精子凍結保存が推奨される(推奨グレードB)
また、ランチョンセミナーで、獨協医科大学の岡田弘先生の講演の一部で、
思春期前の男児に対して、TESEによる精子回収が可能なケースがあるということで、
男性の妊孕性温存についても、今後も解析が進んでいくものと思います。
特殊な一例でなく、こうした長期間での実施による症例の積み上げによって、医療の安全性や必要性はまた一つ証明されていくものと思います。
一人でも多くのお子さんを望まれる方が、その手に抱いていただくことができるよう、
男女ともに妊孕性温存を推進し、がん患者さんへのより多い選択肢が提示されるように努めていきたいと思います。