当院は日本で初めてERA(子宮内膜受容能力検査)を導入いたしました。
妊娠の成立にあたっては、
正常かつ良好な胚
適切な子宮内膜環境
が重要であると考えているためです。
前者については、本来であれば、着床前スクリーニングによる正常な胚の選択が欠かせませんが
日本ではまだ臨床研究段階であり、どうしても形態上での判別となります。
この点についても、2018年1月より原則すべての胚をTimelapsで観察を、KIDScoreの導入もし、
全ての患者さまへより良い培養環境を提供するようにしています。
一方で、子宮内膜側では、上述のERAや慢性子宮内膜炎の検査及び子宮内フローラなどを行っています。
紹介の通り、妊娠はなにか一つの要素で成り立つのではなく、複数の要素が絡まり合います。
今までERAの論文では、受精卵側のクォリティがバラバラのものが多かったのですが、
今回は海外の論文で受精卵のスクリーニングを行って正常であるものだけを戻した場合の検証が始まりました。
ERA+正常かつ良好な胚で期待される効果は?
高輪院の橋本副院長はERAの研究を行っており、日本で初めての論文投稿などもしております。
彼女からの最新論文の紹介です。
「The role of the endometrial receptivity array(ERA) in patients who have failed euploid transfers」
論文名「Journal of Assisted Reproduction and Genetics, Jan 2018 」
著者名:J Tan, A Kan, J Hitkari, B Taylor, N Tallon, G Warraich, A Yuzpe, G Nakhuda
この研究では2014年から2017年にかけて、過去に正常な胚を移植しても妊娠しなかった方88症例にERAを施行しました。
その結果、過去に1回以上正常な胚を移植しても妊娠しなかった方のうち、22.5%が
「着床時期がずれている(Non-Receptive)」
という検査結果となりました。
(5人に1人以上の確率です)
その上で、
①従来通りに凍結融解胚移植したグループ
このグループは過去1回以上正常胚でうまくいかなかったため、ERAを実施し、着床時期のずれがないことがわかったため、
通常通りの凍結融解胚移植を実施したグループです。
②ERA結果に合わせて個別化した凍結融解胚移植したグループ
このグループは過去1回以上正常胚でうまくいかなかったため、ERAを実施し、着床時期のずれがあると診断されたので、
個別に最適な時期に合わせた凍結融解胚移植を実施したグループです。
上記の2グループに分けて検証を行いました。
結果
②の個別化した凍結融解胚移植グループの方が妊娠率・継続妊娠率が高い結果がでました。
(②個別化した移植vs①通常の移植)
着床率:76.5% vs 53.8%
妊娠率:64.7 vs 42.3%
また、このグループには、過去1回のみ着床しなかったという方と、反復して着床していない方が混在しており、
一般的には、後者のほうが不成功となる確率が高いことから、
反復して着床していないグループだけでの①②の比較も行われました。
これによると、
着床率: 66.7% vs 44.4%
妊娠継続率:58.3% vs 33.3%
という結果が得られたとのことです。
しかしながら、統計的な有意差は認められなかったと解説しています。
これは症例数が少ない点や、後方視的研究(治療を実行して、その結果を後から解析するタイプの研究)であったこと、
対象となった患者年齢が若年であったこと、フォローアップした期間が短いなどが関係しています。
現在、ERAの実施施設は世界的にも増加しているため、今後より症例数を増やした大規模な研究、特に前方視的研究が求められることと思います。
この論文は、ERAと着床前スクリーニングを組み合わせた初めての研究報告です。
妊娠の成立は何か単一の要素で成り立っているのではなく、
良好な胚と良好な着床環境が重要と考えられていることから、
まず、正常な受精卵を選別することが重要であり、その上で移植時期の補正を行うことにメリットがあると著者らは強調しています。
また、正常かつ良好な胚でもうまくいかず、着床環境にずれがないという場合には、
それ以外にどのような問題があるのか、そうしたアプローチも今後必要になると著者らは述べています。
今回の論文からも分かるように、やはり正常な胚を戻しても妊娠が成立しない場合、
着床時期がずれている患者さんが相当数存在し、改善の余地がある点に加え、
正常胚の確率が高いと想定される若年の患者さんでなかなか着床に成功しない場合、
ERAや子宮内膜フローラ検査を受けるメリットは十分にあると考えられます。