妊孕性温存について考える

HBOCコンソーシアム学術集会に参加して 後編

1月20日の第6回日本HBOCコンソーシアムに参加してのレポート後編です。

前編は以下から確認いただけます。

HBOCコンソーシアム学術集会に参加して 前編

BRCA1/2遺伝子に変異がある場合のリスクについて


BRCA遺伝子に変異がある場合のリスクとして、

 

50歳までの乳がん発症リスクが通常2%程度に対して、33~50%まで上昇する

70歳までの乳がん発症リスクが通常7%に対して、56〜87%まで上昇する

70歳までの卵巣がん発症リスクが通常2%未満に対して、27〜44%まで上昇する

 

といったリスクが統計上出ているとのこと。

ただ、現在乳がんの治療に関しては、一番のポイントは早期発見であると言われており、

そのため、BRCA遺伝子に変異がある方については

 

①18歳から、自己乳房について意識する

 

②25歳ごろから、6から12カ月の頻度で、医療機関での乳房検診

・25-29歳:年1回のMRI(できなければマンモグラフィ)

・30-75歳:年1回のマンモグラフィとMRI

・75歳以上:個別に管理を考慮する

が推奨されているほか、

③リスク低減乳房切除

 

の選択肢があります。

 

リスク低減乳房切除によって、

乳がん発症リスクが低下すること

現在の技術から乳房再建については非常に選択肢が増えている

一方でリスクに対しても正しい知識が必要

ということで、改めて患者さんと医療者との正しいインフォームドコンセントの重要性が語られました。

実際にこのリスク低減乳房切除によって、乳がんの発症リスクは90%低下すると考えられています。

実際に2010年に行われた研究のダイジェストを紹介すると、

BRCA遺伝子変異があり、予防的乳房切除を受けた群と受けていない群を比較したものでは、

・予防的切除を受けた247名では、その後の発症はありませんでした。

・予防的切除を受けなかった1372名のうち98名に発症を認めました(7%)

 

また、卵巣がんについても同様の研究があり、

・予防的卵管卵巣切除(RRSO)を受けた939名のうち、10名が卵巣がんを発症している(1%)

・RRSOを受けなかった1678名のうち、98名が発症している(6%)

 

となり、予防的切除の効果は一定認められており、実際に様々な診療ガイドラインでは、

「推奨」

とされているのが実情です。

 

がんサバイバーの方のお話から


4名の方が登壇され、それぞれの闘病などについて語られる中で、

非常に強く感じた共通点は、

 

・遺伝性乳がんはがん患者本人だけの問題ではないこと

・妊孕性温存との掛け合わせという点では非常に時間が限られる中で、患者目線でゆったりとした時間が欠かせない

・いずれの選択をされた方でも、十分な情報提供によって、自分自身の選択に胸を張っていけるという事

を強く感じました。

私たちは生殖補助医療に携わる関係者ですが、

患者さんの目線でその人生を考え、結果として、がん治療を優先し、妊孕性温存を選択されないことにもしばしば遭遇します。

妊孕性温存できたこと場合だけが、価値のある人生になっていくわけではありません。

全ての方が希望をもって人生を送ることができるように、妊孕性温存を介しながら、

関わっていきたいと強く感じます。

妊活ノート編集部

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