生殖保持医療の歴史はおおよそ40年であり、
急速に成長してきているものの、未だにわかっていないこともあります。
その中の1つに、胚盤胞移植を行うにあたっての胚の選択、
特に1前核由来の胚盤胞移植があります。
1前核由来の胚盤胞移植では妊娠できない?
通常、体外受精or顕微授精をした翌日に、培養士が2つの前核を確認した受精卵を、
正常な受精卵と判断します。
しかし、まれにではありますが、その前核が1つしか確認できないものがあります。
複数の受精卵が得られ、胚盤胞となっている場合、2つの前核由来の胚盤胞と1つの前核由来の胚盤胞とがある場合には、
基本的に2つの前核由来の胚盤胞が選択されます。
しかし、得られた胚盤胞が少なく、それが1つの前核由来の胚盤胞である場合に、選択が分かれます。
移植をして妊娠に至る可能性を残したまま、使用できないとしてしまうのは、妊娠する可能性を下げることにつながるとも考えられます。
一方で、移植した後の安全性についても検討が必要です。
今回ご紹介する論文は、この1つの前核由来の胚盤胞移植の成績及び安全性について検討したものです。
【論文タイトル】Clinical use of monopronucleated zygotes following blastocyst culture and preimplantation genetic screening, including verification of biparental chromosome inheritance
【雑誌名】Reproductive BioMedicine Online, Vol. 34, Issue 6, p567–574
【著者】Cara K Bradley et al.
【結果】
正常受精(2つの前核由来)が確認された受精卵(正常受精卵:2PN胚)と
1つの前核しか確認出来なかった受精卵(1前核期由来胚:1PN胚)の胚盤胞への到達率を比較すると以下のような結果となりました。
1PN(通常の体外受精) | 1PN(顕微授精) | 2PN(通常の体外受精) | 2PN(顕微授精) | |
検査した受精卵の個数 | 495個 | 697個 | 8487個 | 14861個 |
妻の平均年齢 | 37.7歳 | 36.6歳 | 37.6歳 | 36.6歳 |
胚盤胞到達率 | 26.0% | 13.8% | 54.2% | 54.6% |
良好胚盤胞到達率 | 53.7% | 46.0% | 62.8% | 62.4% |
1前核期由来胚の胚盤胞到達率および良好胚盤胞到達率は、通常の体外受精・顕微授精どちらの場合でも、正常受精卵と比較すると低い結果となりました。
要約すると、1つの前核由来の受精卵の多くは胚盤胞まで到達しないということです。
ちなみに、これは当院でも同様のデータが出ております。
続いて、胚盤胞に到達したものの染色体異常率についての結果です。
1PN(通常の体外受精) | 1PN(顕微授精) | 2PN(通常の体外受精) | 2PN(顕微授精) | |
検査した受精卵の個数 | 74個 | 32個 | 2117個 | 2707個 |
妻の平均年齢 | 37.5歳 | 36.2歳 | 36.5歳 | 36.7歳 |
染色体異常率 | 39.7% | 40.6% | 41.1% | 42.5% |
胚盤胞に成長した受精卵では、1前核期由来胚でも正常受精卵でも染色体異常率に有意な差は認められませんでした。
胚盤胞に至る過程で、染色体異常なものは止まってしまいます。そのため、胚盤胞まで至っているものは、1前核由来、2前核由来に関わらず、
染色体異常率については、差がないとも考えられます。
さらに、染色体異常がなかった1前核期由来の胚盤胞を移植したところ、通常の体外受精では、20症例のうち6症例に妊娠が認められ、
4名が出産まで至り、顕微授精では、6症例のうち3症例に妊娠が確認、1名が出産まで至っています。
いずれも出生児に異常は認められていません。
ただし、1前核期由来の受精卵の場合、片親性由来の染色体のみの可能性があるため移植には注意が必要である、と論文中では述べられています。
リスクについては、十分に理解した上で、1前核由来だからダメとするのではなく、
妊娠する可能性を高めていくヒントになりそうですね。