ステップアップを検討されている患者さまからよくいただく質問で
「原因不明性不妊ですが、人工授精から始めるべきですか?体外受精から始めるべきですか?」
というものがあります。
これについての参考になる論文を紹介したいと思います。
参照:原因不明性不妊とは
参照:治療計画の立て方について
人工授精か?体外受精か?どちらがステップアップとして正解か?
ステップアップを考えていく際に、原因不明性不妊の場合は、
タイミング法
(卵巣刺激+)人工授精
体外受精
という形でステップアップをしていきます。
この、タイミングから一気に体外受精に進んだほうが良いのではないかと考えられる方が
とても多いということですね。
Fertility and Sterlityに紹介されている論文で
原因不明性不妊の患者を対象として、人工授精+卵巣刺激と体外受精の患者群に分けて無作為に比較した研究を行いました。
対象となる群においては、
-
不妊期間が1年以上
-
年齢が23歳から37歳の間
-
BMIが19-30
など、特異な不妊原因が想定されにくい群同士を比較しています。
人工授精+卵巣刺激を3周期行う場合(A群)と、体外受精の1周期を比較した場合(B群)の成績を検討したところ、
妊娠率に有意差なし
A群)33.6%
B群)46.2%
出産率に有意差なし
A群)28.7%
B群)33.9%
多胎妊娠率に有意差なし
A群)13.8%
B群)8.3%
流産率に有意差なし
A群)12.0%
B群)26.5%
と結論付けています。
つまり治療成績の観点からは、人工授精+卵巣刺激×3周期と体外受精1周期には差が無かったとしています。
一方でコストという考え方では、やはり体外受精の方が非常に高額になり、
身体や心への侵襲性という観点から考えた時には、人工授精+卵巣刺激の方が良いという考え方になるようです。
医療経済学という観点も取り入れられており、日本においてもこうした考えが今後広がる可能性があります。
ちなみにオーストラリアのように体外受精が進んでいる国では、
助成金などの結果として、人工授精と体外受精の費用負担が同額になっている国もあります。
そういった国で実施された論文であれば、また結論付けは変わってくるものかもしれません。
ただし、これはあくまでも確率論であることと、個別の卵巣予備能などの状況やご夫婦の希望、男性の妊娠する力など
かなり個別具体的に考えなくてはならないものだと思います。
当院では、患者さまのご要望を軸に一人一人に合った治療をご提案していきます。