がん・生殖医療外来や妊孕性温存外来が日々広がっています。
がんの治療技術が目覚ましく発達し生存率が高まっていることから、
がんサバイバーの方々のQOLを高めていく必要があります。
そのための妊孕性温存という選択肢です。
とはいえ、がん・生殖医療において最も優先されるのは、がん治療です。
そのバランスをとりながら、適切な情報提供がされることが望まれています。
妊孕性温存カウンセリングはがん患者のQOLに対してどのような影響を与えるか
海外のシステマティックレビューが論文として紹介されています。
この研究では、2010年から2015年に行われたがん患者の妊孕性温存に関する研究で心理的結果を扱っている13論文をまとめたものです。
妊孕性温存の話を誰から聞いたか
①腫瘍医から:46.9%
②その他の医療者から:18.2%
③患者自身で調べて:約35%
生殖医への相談をうけるまでにかかった期間は2日から7日と
比較的短期間で行われていることがわかっています。
また、患者さん自身での問い合わせの場合には、
主治医との連携も欠かせません。
妊孕性温存の話を聞いて満足できたか
妊孕性温存についてのカウンセリングを受けた患者64名のうち、
がんと生殖、両方の専門家に相談した方は、がんの専門家のみに相談した方に比べて後悔が少ないことや、
妊孕性温存についてのカウンセリングを受けた方のほうが、たとえ治療をしない選択をしたとしても満足していた。
という結果が得られています。
また、生殖の専門家からカウンセリングを受けたほうがQOLは高く、
相談後、温存治療を受けた女性は、相談のみの場合よりも満足度が高いという結果が得られています。
妊孕性温存治療を受けなかった理由
・がん治療開始までに時間がなかった 34%
・費用や保険について 10%
・その他、年齢や出産歴、婚姻状況など 5%
また、腫瘍医からがんの再発のリスクを受けたことや、
がんが子に遺伝する率が高くなることなどの説明を受け、
温存治療を選択しないということもあった。
また、医療者からの説明として、1人以上子がいる女性に対しては、
妊孕性温存を強調せず、がんの生存可能性について重点をおいた説明がされていたとのことです。
この点については、賛否両論が分かれるとは思いますが、
医療者側の理由だけで、患者のニーズを限定すべきではないかもしれませんし、
そのニーズを埋めるためには、医療機関同士の密な連携が欠かせないと思われます。
日本においては、諸外国と比べて、治療費が高く、費用に関するハードルは一層高いものと考えられます。
がん・生殖医療学会などが主体となり、助成金の申請等の活動をしており、続報が待たれているところです。
妊孕性温存を考える患者さんは、がんの告知を受け、そのことで頭がいっぱいである状況が普通であり、
決断をするまでに許された時間は決して多くありません。
その限られた時間の中で、がん・生殖、それぞれの専門家がネットワークを組み、
適切な情報提供を行うことで、患者さんの人生を豊かにすることの助けになるのだと思います。
当院では、不妊症看護認定看護師やがん・生殖医療専門心理士が情報提供を行い、
ドクターの問診を行っています。その後のフォローもできるように心がけています。
HOPEカードの取り組み、においても紹介しておりますが、
妊孕性温存の治療の前に、まずは十分な情報提供がされることが欠かせません。
そうした情報を患者さんに届けられるように今後も取り組んでいきたいと思います。
当院では、こうした情報提供を充実させていくために、
外部の医療機関の方々もお招きして、勉強会や講演会も数多く実施しています。
来年は1月16日に実施予定です。
また、別途ご紹介できればと思います。