当院にもお越しいただいている獨協医科大学の大野田晋先生が、
日本生殖心理学会誌にて発表されている内容についてご紹介したいと思います。
カウンセリングや情報提供については、どちらかというと女性に向けたものとして議論がなされてきました。
しかし、不妊の原因の半分は男性であると言われている現在においては、女性と同様に男性への情報提供も充実していかなければなりません。
特に無精子症であることがわかり、その後TESEの手術を受ける方について、今回の論文では考察が書かれています。
精巣内精子回収術(TESE)を行った患者についてのその後のフォローアップ
今回の研究では、
2014年4月あら2016年3月までにTESEを実施した165症例を分類し、
MD-TESEを施行したものの、精子回収が不成功であった症例のその後の転帰や及びその背景について
検討したというものです。
無精子症やTESEについては、以下から確認いただけます。
今回の研究によると、
MD-TESEを施行した129例
└うち精子回収32例、精子回収に至らなかった97例
└治療終結3例、AID34例、特別養子縁組2例、転院4例、
└方針未決定が54例(精子が回収できなかった症例の56%)
ということがわかっており、手術を受ける上で、回収できなかった場合の対応はもちろん、
その後の長期的なフォローアップが欠かせないということが示唆されています。
100人に1人と言われる無精子症は他の男性不妊と比べて、
遺伝的な要因があったり、精子回収できなかった場合に妊娠を望むとなると非配偶者間での治療に直結したり、
治療が終結してしまう(女性の場合、加齢によるものだと低確率にはなったも0%にならない)ことへとつながるなど、
複雑なものです。
100%の治療はなく、困難なことではありますが、やはり術前にきちんとした情報提供がなされるべきだと考えられており、
この情報提供モデルについては、がん・生殖医療のモデルが参考になるともいわれています。
当院でも盛んに行っているがん・生殖医療の情報提供は、非常にきめ細かく行われます。
がんに罹患したばかりで複雑な環境に置かれている中で、これからの妊娠する力に対して起こることを一つずつ丁寧に理解していきます。
後ろにがん治療開始が控えているため、短い時間の中でこうした理解を得ることも求められます。
そうすることで、納得のいく意思決定がなされ、仮に妊孕性温存を選択しなくても、その方のクォリティオブライフ(QOL)は高まることがわかっています。
こうしたがん・生殖医療と比べれば、時間的な制約は少ないため、
参考とすることで、良い支援体制につながる可能性があると考えられます。
もちろん、そうした上でご夫婦での話し合いが欠かせないことは言うまでもありません。
当院でも精巣内精子回収術を受けられる方の術前・術後のフォローについてはケアしていますが、
不妊原因は男女半々の時代、ケアも同じように行き届くよう努めていきます。